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第3章 その(5) [小説 < ツリー >]

憑依の視座―巫女の民俗学〈2〉

 

 

 

 

 

                    第3章 その(5)

「本物の暗闇って?」
「あの三人が中心になって企画してたけど、自然の中にある暗闇を研究するんだとか。とにかくアウトドアで真っ暗闇を探す。大体は深夜の森や山の中を探検するんだ。灯りもなしで一晩過ごしたりするよ」
 
「暗いところで過ごすだけ?しかも山の中?」
 矢島は飲みかけのグラスを持ったまま訊いた。
「あいつらが言うには、今はやりのスピリチュアルが体験できるらしい」
 俺がそう言うと、川崎が続けていった。
「現代人は暗闇を失ってしまったことで、大切なことを忘れてしまったんだよ。あいつらの受け売りだけどね」
「まぁ、何となくわかる気はするけどね、守護霊とかいう話のことだろう」
  矢島は興味なさそうに言った。

「いや、それとは違うな、そこまでぶっ飛んじゃいないよ。でもさぁ、よく考えたら、発端は祐介のような気がする。言い出しっぺは祐介だよ」
「俺が?どうして?」
 どうもピンとこない。
「だってさぁ、定例の闇鍋パーティの時……そうだよ、祐介が言ったんだよ、部屋ん中真っ暗にしてもこんなの偽物だって。本物の暗闇でやりてえよって言ったの覚えてない?」
「そんなこと言ったっけ、他の奴じゃないの?」
「いや、確かに祐介だったね。あの日はかなり酔ってて、過激な発言多かったぞ」

「例えばどんなこと言った?」
「うーん、たしか……そうそう、社会に出る前に引きこもりをするべきだって。この緩んだ学生生活の延長で社会人になってはならないってね。三ヶ月間一切の連絡を絶って部屋に引きこもれってね。本も読むな、音楽もテレビもだめ、一日カーテンを閉め切ってひたすら寝るだけ。食事は最低限でいいと。目覚めたときに思いつくことを書け。どうしても外に出るときは真夜中だけにしろってね。確かそんなことをしゃべるとゴーゴー眠ってしまったよ」 
 川崎はまるで自分の言葉のように話した。

「ホントに覚えてないよ」
 そう言うと、
「祐介が来なくなったときはわからなかったけどさぁ、それって、もしかして計画的だった?」
「違うよ、気がついたら引きこもりしてたんだよ。好きでやってた訳じゃないよ」
 そう言いながら、川崎と矢島に酒を注いだ。

「まぁ、今日は出てきたから信用してやろうぜ、川崎」
 矢島はそう言うと、あの人懐っこい笑顔を浮かべた。
「まぁ、祐介は信用するとして、他の同好会の連中はどうしてこなくなったのかなぁ」
 川崎はどうも納得できないようだ。
「それは、祐介に原因があるかもね」
 矢島が俺をみて言った。
「何で?」
「祐介が酔っぱらって言ったことがだなぁ、伝染したんだよ。まぁ、小規模な集団幻想ってとこじゃないの?」
 矢島はこういう話になると饒舌になる。

 

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