第5章 その(24) [小説 < ツリー >]
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第5章 その(24)
「そろそろ出来るわよ、起きて」
加代子の嬉しそうな声を加代子の中で聞く。呼ばれているのは布団に潜っている俺の身体。うっすら眼を開け、ジーンズをはいた加代子の後ろ姿を眺める俺の目は、ぼんやりしながら、加代子の腰の辺りに視線を泳がしている。自分でもいやらしい感じに見える。
だけど、俺の中にいるのは可奈子だから、いやらしい目で見るのは変な気がする。
<可奈子、俺はあんないやらしい目はしないぞ>
そう、可奈子に話しかけてみた。
<私は何もしていないわよ、ただ、あなたの中にいて、身体が感じる色々な感覚を楽しんでいるだけよ。眠気も、空腹も、少しいやらしい感覚も、何でもかんでも、身体が感じるものは素晴らしいわ。あなたがいなくてもね、身体はあなたに教えられたとおりに動くものなのよ。歩き方を考えながら歩いたりしないでしょう、身体はあなたの考え方や動き方を何年もかかって学んでいるから、日常の大抵のことは自動運転みたいなものなのね。考えなくてもきちんと対応してくれるの、わかった?>
<じゃぁ、可奈子は俺に何の影響もないわけ>
<やろうと思えば出来るよ、例えば、今、後ろから抱きつけって私が思えば、やるかも知れない。それはあなたの身体の学習次第ね、そんなことは好みじゃないって強く学習していれば、出来ないこともある。でも大抵は衝動的に動くものだけどね>
<俺の身体はそれほど利口じゃないし、余りちょっかいは出さないでくれ>
<まぁ、しばらく楽しませて貰うことにするわ>
全く妙な具合になってしまった。これから俺がどうするかは俺が一番よく知っている。俺の行動を加代子の身体の中に入って見ているなんて、気が変になりそうだ。
俺の身体が怠そうに起き上がった。頭を掻きむしりながらトイレに入り、簡易シャワーを浴びる。下半身が僅かに変化し始めている。確かに自動操縦だ。可奈子の笑い声が聞こえてきそうな気がする。
加代子は、以前と同じように振る舞い、まるで何事もなかったかのようだ。昨夜、二人の間に起きたことは何だったのだろうか。加代子は俺を本気で殺そうとしたのだ。そして、俺の中に真実は無かったと、全ては仮面だったと言った。可奈子のことも知っていた。
俺と可奈子が入れ替わった後、何があったのだろうか。加代子の中に嘘はないと思う。俺が加代子の中に感じるのは……まるで澄み切った青空みたいな清々しい感じ。曇りがない。
俺の口から可奈子の言葉を何か聞いたのだろうか。でも可奈子は、美緒や加代子を決して心よく思っていなかったはずだし、よくわからない。可奈子には何か秘密があるような気がする。
ただ、身体を借りるだけなのだろうか。それで俺の罪を帳消しにするつもりなのだろうか。俺は、何をされたとしても覚悟の上だが、美緒や加代子は守りたい。
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