第5章 その(25) [小説 < ツリー >]
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第5章 その(25)
加代子は出来上がった料理を運び、俺の身体は皿の上に乗った料理をつまみ食い、うんうんと頷くようにしてテーブルの前に座った。会話は殆どなく、ただ出された料理をどんどん口に運んでいる。
「どう、美味しい?」
「うん、なかなかいける」
俺の身体はいつものように答えているが、自動運転なのだろう。あっという間に食べ終えると、また眠そうな顔をして布団に潜り込んだ。
自動運転は俺だけではないようだ。加代子も片付けを終えると黙ってシャワーを浴び、俺の身体の横に潜り込んだ。そして、いつものように、俺の身体に手を伸ばし股間を弄び始めた。
その手の動きを急にやめると、
「ねぇ、昨日の夜のことだけど、一体何があったの? 終わったって言ったけど、何がどうなったのか、やっぱり私には理解出来ないわ」
と、訊いた。
やはり加代子には、俺と可奈子との話は聞こえていなかったようだ。
「可奈子は帰ったよ」
俺の身体は無愛想に答えた。
「どこに?」
加代子の中に、不安感が膨れあがってくるのがわかる。料理を作っているときの清々しい感じは隅に追いやられてしまった。
「さぁ、それは俺にもわからないよ。あの光の中で俺は可奈子に謝ったんだよ、そしたら、何も言わずにいなくなった。それだけだよ」
可奈子は俺に嘘を言わせているが、そんな言い方ではすぐに加代子は見破ってしまう。
「そう、それならいいけど」
加代子はそう言うと、再び手を動かし始め、それ以上訊かなかった。簡単に引き下がるときの加代子は何かを考えているときだ。何を考えているかは伝わってこないが、納得していない証拠に、不安感は消えず却って大きくなっている。
<可奈子、どうしてあんな嘘を言うんだ>
<じゃぁ、俺の中には可奈子が入っていて、俺を操っているって言えば良かった? そんなこと言ったら、頭が変になったって思われるだけよ>
<いや、それは困るけど、もう少し丁寧に話すとかあるだろう>
確かに可奈子の言う通りで、真実を話す方が余程怪しい。
可奈子と話している間に、加代子は足を俺の身体に絡ませ、俺はいつものように加代子の身体を引き寄せ、胸の谷間に顔をうずめている。加代子の身体が熱くなるのを感じ始めた。男の欲情はどこかで冷静な部分があるが、女の欲情は男のそれとは全く違う気がする。
俺が今まで味わったことのない感覚が押し寄せてきた。
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