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第5章 その(26) [小説 < ツリー >]

憑依の視座―巫女の民俗学〈2〉

 

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                              第5章 その(26)

 この感覚は、男には想像することすら出来ないだろうと思う。まるで質が違うのだ。俺は加代子の中で、自分を見失ってしまった。命を受け入れるとはこういう事なのだろう。 加代子が悲鳴を上げたのかそれとも俺だったのだろうか、加代子の身体の中で、二人の意識が朦朧と漂っている。

 気がつくと、隣で俺の身体がタバコの煙をくゆらせている。まるで一仕事終えた後のようだ。
暫くすると加代子が目を開け、天井を見ながら何かを考えている。漠然とした不安感を感じているようだ。
「大丈夫だった?」
 加代子が訊いた。
「ああ、大丈夫」
 自動運転のように俺が答えている。
「ならいいけど」
 加代子はそう言うと、また天井の隅を見ながら何かを考えている。

「ねぇ、可奈子さんが此処にいるような気がするわ、本当に帰ったの?」
 加代子の鋭い勘は何かを探り当てたようだ。
「帰ったって言ったろう、もうどこにもいないよ。気にしすぎだと思うよ」
 可奈子が俺の身体にそう言わせた。

「でもあれは絶対可奈子さんだったわ。私の上に乗っていたのは祐介さんじゃなかった」
 加代子は、天井を睨みながら、思い出すように言った。
「馬鹿なことを言うなよ」
 少し怒ったような口調だ。可奈子が、俺の身体の中で慌ててそう言わせたのだろう。

「でも見えたのよ、祐介さんがイク寸前だったわ。火花がスパークしたみたいに目の前が白くなってね、その光の中に女の人の顔が見えた。この部屋の中にいるような気がするの」

「もう、いい加減にしろよ。気にしてるから見えたような気がするだけだよ」
 俺はそう言わされると、さっさと起き上がりシャワーを浴びに行った。

<加代子は薄々感づいてるよ、もういいだろう、俺の身体から出ろよ>
 俺はそう話しかけた。
<まだ駄目よ、祐介の身体は居心地がいいわ>


タグ:憑依の視座
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