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第6章 その(3) [小説 < ツリー >]

真言密教の霊魂観

 

真言密教の霊魂観 (単行本)

佐伯 泉澄 (著)

 

 第6章 その(3)

「じゃぁ、祐介君が霊体のままこっそり入ることは無理なのね」
 美緒がそう言うと、
「でも、誰かの身体の中に入っていれば隠れ蓑になるんじゃないか?」
 片岡さんは、名案を思いついたように言った、
「私の身体じゃ、怪しまれるだけで中に入れてもらえないわ」
 と、美緒の声には元気がない。

確かに、誰かの身体の中に入っていれば見つかりにくいと思うが、今度は身体が邪魔になって、こっそり入るなんてことは出来ない。
<そうだ!>

「祐介君が何か思いついたみたいよ」
 美緒は表を出してくれた。
『加代子の中に入れば大丈夫だと思う。外に呼び出して欲しい』
 指先で示す文字を、片岡さんが読んだ。

「わかった、加代子さんにメールをするわ。私たちが家の近くにいることを伝えるの。そして、家の外で会えるか訊いてみる」
 美緒は携帯を取り出しメールを打ち始めた。

『大丈夫ですか? 私たちは、家の近くまで来ています。出来れば様子を教えてください。こっそり会えれば、祐介君が加代子さんの中に入ると言っています。私たちは家の前を過ぎた先の、柿の木の辺りに車を駐めています。シルバーのヴォクシーです。    
                                                                           美緒 』

「これでどうかしら、出て来られるといいけど」
 そう言って携帯を閉じた。

 後は、メールの返信を待つしかない。片岡さんは車のエンジンを回し、暖房を入れた。辺りに雪はないが、山の北側の斜面や、日陰になっているところには雪が残っている。美緒の身体を通して寒さの感覚を感じる。

「お昼にしようか」
 そう言うと、美緒はバッグから弁当と取り出し、一つを片岡さんに渡した。片岡さんは、その弁当を、小さな声でうんうん言いながら食べている。

「叔父さん、その、うんうん言いながら食べるの変よ」
 美緒は笑いながら言った。
「美緒はお母さんみたいだなぁ、これは子供の時からの癖で、お前のお母さんにもよく言われたよ、お兄ちゃんは食べるときに声を出して変だって」

「叔父さんはお母さんと仲良かったんでしょう、どこに遊びに行く時も、連れて行かれた
って聞かされたわ」
「ああ、そうだね、仲良かったよ。俺が会社辞めて神主になるときも一番心配してくれたのはお母さんだったね。だけど俺はお母さんが辛いときに何の力にもなれなかったのが情けなくってね、それに紗英まで死なすことになって……頼りない叔父だな」
 片岡さんは寂しそうに笑った。

「メールだわ、加代子さんね」

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タグ:真言密教
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