SSブログ

第6章 その(13) [小説 < ツリー >]

江戸の媚薬術 (新潮選書)

江戸の媚薬術 (新潮選書) (単行本)

渡辺 信一郎 (著)

 

 

                                    第6章 その(13)

 源三郎が皆に前に立ち話し始めた。
「それでは只今より夜明けまで、二根交合の秘技を執り行います。この秘技は真言天地流門外不出の法門であり、この法門故に我が天地流は数々の誤解と迫害を受け、邪教の烙印を押されて参りました。この棚橋源三郎は秘技の本意を知っております。故にこのどくろを完成させることが使命であり、完成すること無ければ、人々に所願成就の幸福境地を知らしめることは不可能であります。
 宇宙の真理は何か、それは、宇宙即命、命即宇宙ということです。そして、宇宙と直結する瞬間こそが悟りを得る唯一の時なのです。天地流では、宇宙と直結する場を男女の営みの中に発見し、それを目に見える形に表したものがどくろ本尊なのです。どくろは死を象徴し、どくろに塗り込めるものが生を象徴する女性の愛液なのです。男根と女根が出逢い、二つの命が一つに解け合い、最高潮に達した瞬間において宇宙が扉を開くのです。その時の愛液を一滴残らず筆に納め、真言を唱えながらどくろに塗り込めるのです。これを序の儀と呼び、零時から夜明けまでに行うのが最良であると伝わっています。皆様にはその間、真言を絶やさず唱えていただきます。宜しいでしょうか、皆様の真言の波動が宇宙を揺さぶり、二根交合の秘技を完成させることが出来るのです。それでは始めますので、ご用意をお願いします」

 源三郎は話し終えると祭壇を向き深々と頭を下げ、小さな声で何かを呟いた。加代子は初老の男に促されるように布団の上に立たされ、部屋の灯りが消された。四隅に置かれた灯油ストーブの赤い光と、祭壇に灯された蝋燭の明かりが加代子を照らしている。
 
 女性の信者が加代子の脇に立ち、白い肌襦袢をゆっくりと脱がせ始めた。加代子は抵抗する気配もなくぼんやりした意識で、視線は虚空を彷徨っているように感じる。得体の知れない霊体が増えたようだ。

 着ていたものが全て脱がされたが、それでも加代子はまるで羞恥心を忘れてしまったかのように立っている。源三郎は祭壇に置いてある小瓶を手に取ると蓋を開け、その中身を掌に落とした。油のようにドロリとした液体が指の間から布団の上に落ち小さなシミを作った。

 その液体を加代子の肩から乳房、腹へと順に塗り始めたが、加代子はまるで何事も無いかのように、身動き一つしない。身体の前面を塗りおえると布団の上にうつ伏せで寝かされ、背面にも同じように、肩から背中、尻へと順に塗られた。

 小瓶は周囲を取り囲む信者にも渡され、同じように手に落とすと、加代子の身体に塗り始めた。一体何本の手が加代子の身体の上を彷徨っているのだろう、その不思議な感覚は俺にも伝わってくる。まるで虚空を漂っているかのような感じがするかと思えば、痺れにも似た感覚に襲われる。その痺れのような感覚は次第に波打ちながら全身を包み込み始めた。痺れは熱を発し、身体が火照るような感じがする。

 

 

創作小説ランキングサイトに登録しました。よろしければ下記リンクをクリックお願いします。http://www.webstation.jp/syousetu/rank.cgi?mode=r_link&id=3967


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0