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変化(4) [小説<物体>]

                             変化(4)

 見た目は派手な色彩が消えてより人間に近い。人間らしく可愛くなったのかも知れないが、俺には人間に近づけば近づくほど気味悪さが増してくる。祐子は男の子と決めつけているが、まだ性別は分からずマネキンのようだ。
「一体いつまでこうしておくつもり?」
 俺は我慢できずに訊いた。
「いつまでって、マーブル君がいいって言うまでに決まってるでしょう」
 祐子はもうすっかり物体が人間の子どものようになって話し出すと思っているようだ。
「形は人間みたいだけど、マーブル君は絶対人間なんかじゃないよ、あり得ないだろう、そんなこと」
 可愛くなればなるほどその裏に悪意がありそうな気がする。
「人間かどうかなんてことは関係ないわ、確かなことは生きてるって事よ。それに此処にいるって事は何か理由があるのよ、きっと謙太にも関係あるわ。だから私は此処で育てるのよ、わかった?」
「育てる?」
「そうよ、マーブル君は私がいないと駄目なの。この子は人間になろうと頑張っているのよ」 
 もう何を話しても祐子の気持ちは動きそうにない。こうなれば俺は用心深く付き合うしかないだろう。
「じゃぁ、これだけは守ってくれ、絶対にケージから出さないこと。いいかい」
 せめてこれくらい守ってくれないと夜もおちおち眠ることも出来ない。
「わかった、約束する」
 祐子は嬉しそうに返事をしたが、きっと俺の心配なんかこれっぽっちも気にしていないだろう。

 俺はいつものように仕事に出かけるが、祐子は出かける気配もなく嬉しそうに物体を眺めている。
「バイトはいいの?」
「うん、辞めたよ。蓄えがあるから平気」
 一日中見ているつもりらしいが、俺ならこんな不気味な物体と一日過ごすなんて考えられない。元々興味を持って持ち帰ったのは俺だが、まさかこんな事になるなんて思いもしなかった。祐子を呼ぶ前にさっさと元の場所に戻せば良かったと思うが今となってはもう手遅れのようだ。

 祐子は確かに同年齢の女の子と比べると風変わりで、お洒落とか音楽とか今流行のモノなどにはまるっきり興味を示さない。美味しい店を調べて連れて行っても、味には無頓着でまるで連れて行った甲斐がないのだ。好きなモノを訊いても首を傾げるだけで手応えがない。金のかからない都合のいい女かと思えばそうではなくて、どこかに俺には理解できない筋が一本通っているように感じる。風水に凝っているようだが、あれも祐子が勝手に風水と言っているだけで、実は祐子のカンなのだと思う。いろんな事にダメ出しをして、その理由を尋ねると風水だからとしか答えない。風水と言えば皆が納得すると思っているようだが、納得できる説明や知識を聞いたことがない。でも祐子の言うことは後になってみると、無茶苦茶のように思ったことでも意外とそうではなかったと思うことがよくある。

 

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