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悪夢(4) [小説<物体>]

                     悪夢(4)

 俺も後ろから行ったがアメーバーが見えない。もう見えてもいいはずだ。遠藤さんも不審に思ったのか、動きを止めて辺りを見回すようにしている。
「遠藤さん、戻ろう」 
 俺が声をかけると、
「ああ、こいつをぶち込んでからな。泡で酸欠にしてやる」
 そう言って、ゆっくり前に進み始めた。おれも恐る恐る後ろから付いていったが、植え込みや自転車置き場などの暗闇から飛び出てきそうだ。確かに車の下から俺たちの方に向かって来ていたはずだ。それなのに見つからないのは………
「遠藤さん、やばいよ、あいつ隠れてる」
「わかってる、だから見つけてやる」
 遠藤さんは姿勢を低くして植え込みの奥の方を睨み始めた。見つけたのだろうか、ゆっくりノズルを動かし植え込みに向けた。顔を左右に動かし位置を確認している。ノズルの向きが僅かに動くと、勢いよく白い液体が植え込みの暗闇に飛び出した。液体の軌跡が直線的に伸び植え込みに吸い込まれている。その先を追うように覗きこむと白い塊がズルリと動くのが見えた。
「逃げろ!」
 俺はそう叫んで駆け出したが、その直後に悲鳴が後ろから響き、鈍い音がした。振り返ると遠藤さんは仰向けに倒れ、泡まみれのアメーバーが細長く伸びて身体の上を動いている。
大声で名前を呼んだが、その時にはアメーバーの先端は口の中に入り込み、不自然に大きく開いている。両手が喉を掻きむしるように動くと、身体が逆エビのように仰け反り全身を痙攣させ始めた。助けようにもどうしていいか分からない。全身の痙攣が止まると最後に指先が熊手のように硬直して動かなくなった。あっという間の出来事だ。アメーバーの姿は見えず、痙攣しているときに遠藤さんの身体の中に全部入ってしまったようだ。生きているのだろうか、もう一度大きな声で名前を呼んだ。俺はゆっくり後ろ向きに歩きながら遠藤さんを見つめたが、ピクリとも動かず何の反応もない。まだ生きているのかも知れないが、どうすることも出来ない。後ろめたい気持ちを押し殺すように思い切って皆のいる方に走り出した。

 祐子と杏子さんは、倒れている遠藤さんを泣きそうな顔で見つめている。
「どうなったの?」
 祐子が尋ねたが、俺は首を横に振ることしかできない。それより今は逃げることを考えないと次は俺たちが危ない。
「今なら車に戻れる、行こう」
 陽介さんが言うと、杏子さんも祐子も黙って頷き車の方に走り出した。全員乗り込みもう一度遠藤さんを見たが、変化はない。アメーバーもいない。おそらく遠藤さんの身体の中に潜んでいるのだろう。

 陽介さんが車を発進させ、俺はリアウィンドウから遠藤さんの姿が見えなくなるまで見ていた。少しでも生きている兆しを発見できないかと思ったが、それらしいことは見つけられず、遠藤さんは暗闇の中に1人取り残されてしまった。

 

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