SSブログ

悪夢(15) [小説<物体>]

                           悪夢(15)

「オロチとツリーチルドレンに変容するシミュレーションはおそらく見たとおりだと思うが、可能性として有力なものがもう一つあるということだ。発現確率は六十パーセント程度だろう。だが今の精度ではどんな物体なのかは分からないがね。彼はその物体こそが、地球外知的生命体じゃないかと考えているようだが、私は少し飛躍しすぎているように思うね」
「じゃぁ、何が生まれてくると………」
「地球外の何者かが、縄文の時代から我々に関わっていると仮定すれば、彼らの目的は侵略でも移住でもない。観察者でありクールな管理者だろう。地球が生態系に支えられているように、宇宙もそれぞれの天体が支え合っているなら、地球の異変を見過ごしたりしない筈だ。つまり、池に増えたブラックバスを見逃しはしないだろうと言うことだよ。ブラックバスを根こそぎ排除したあとに、必要と思うものを入れるだろう。
「必要と思うもの?」
「そうだ。地球上で二酸化炭素を吸収して光合成できるのは、葉緑体と光合成細菌の2種類しかいない。私ならこれを増やそうとするだろう。例えばウミウシのような生き物だな」
「ウミウシですか?」
「そう、海岸にいるあのウミウシだ。奴は海藻から葉緑体だけを取り込んで光合成できる奇妙な生き物だ。形はウミウシかどうか分からんが、葉緑体がもっと積極的に環境適応できるようになっているだろう。光を食べて生きることの出来る奇妙な奴だ」
 工藤さんはそう言って笑った。俺は頭の中で、その奇妙な奴を想像してみたがどんな生き物か見当も付かない。いずれにしてもその奇妙な奴が現れる頃には俺たち人間は排除されているのだろうか。
 俺は地図を片づけ、工藤さんは明日の用意をすると言って研究棟へ向かった。少しばかり測定器具を持って行くらしい。

 部屋に戻ると祐子はもう寝息を立てていたが、マー君は布団の中で天井の一点を見つめるように目を開けていた。
「明日、僕も行っていい?」
 マー君は天井を睨んだまま言った。
「どうして?」
「どうしてだか分かんないけど、そんな気がする」
 そう言ってマー君は俺を見たが、その目は無邪気な子どもの目ではない。波一つ無い湖の水面を見るようだ。
「わかった。だけど工藤さんにも訊いてみよう、明日は危険だからね」
 そう答えると、マー君は小さく頷いて目を閉じた。きっと彼の感受性が何かを察知しているのだろう。オロチがツリーチルドレンを第一の標的にし、その位置を的確に把握する能力を考えると外に出ることは危険だし、近くにいるオロチを呼び寄せてしまう。もし皇居の中にオロチが沢山いたら、みすみす餌食になりに行くようなものだ。彼の中にもオロチを察知する力があるのだろうか。俺たちよりも環境の変化に対応する力は優れていると
工藤さんは言っていたが、今までの彼の動きを見ていると内に秘めた力を日々大きくしているように感じる。俺たち以上に必死に生き残ろうとしているのだろう。それは元々持っている生命力なのかも知れない。

 

創作小説ランキングサイトに登録しました。よろしければ下記リンクをクリックお願いします。http://www.webstation.jp/syousetu/rank.cgi?mode=r_link&id=396


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0