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悪夢(16) [小説<物体>]

                                  悪夢(16)

 翌日は祐子に起こされた。まだ夜は明けきっていないが、マー君も祐子も一緒に行くつもりですっかり用意を調えている。出来れば連れて行来たくないが仕方がない。研究室まで降りると、工藤さんも測定器具などを用意して待っていた。マー君のことを伝えると、工藤さんは暫く考えていたが、マー君の顔を見ると黙って頷いた。俺と同じように何かを感じたのだろう。
 マー君がいることでオロチに察知される危険性はあるが、異常なプラーナの多い場所ではきっとマー君の力が必要になると思う。
 市ヶ谷の駐屯基地には連絡済みで、既に軽装甲車両が二台待機している。俺たちはワゴン車に乗り込み幾つかの機材を積み込むと出発した。この地域にもオロチが現れているはずだがから油断は出来ない。
 夜間の外出は危険な為制限されているが、日中の制限はなく時折車とすれ違う。その度に車を止めてお互いに情報交換をするが、今のところオロチを見かけたり、混乱したような情報はない。やはり拠点に沿ったコースを選んだのは正解だった。このまま進めば無事に駐屯地に到着し、後は自衛隊員が俺たちを守ってくれる筈だ。

 駐屯地正門前に着くと、連絡のあったようにカーキ色の四輪駆動車が二台並んでいる。
一台の方に装備を身につけた隊員が四名乗り込み、もう一台が俺たちに提供された。市販のオフロード車と差ほど変わりはなくオートマだ。天板が円形にくり抜かれ扉が取り付けてある。車上から銃撃する場合に使用すると説明があった。予定コースを説明し、皇居へは半蔵門から入ることになったが、皇宮警察とは連絡が取れず、中の様子はどうなっているのか分からない。どうやら無人の可能性が高く、もう既に天皇家は安全な場所に避難しているのではないかとの話だった。それ以上のことは極秘なのだろう。
 運転はそれ程難しくはない。隊員の車が先導してくれるが、ビルの谷間に人影は見られず、車の往来も無くなった。次第に路上に散乱している壊れた看板や放置車両が目立ち始めた。皇居に近づく程に拠点からは離れ、今まで通ってきた道路とはまるで違う。かなり気密性の高い軍用車両だが、それでも中に異様な臭いが漂ってくる。工藤さんが幾つかの測定器を作動させ始めた。大気中のエアロゾル(大気中に漂う微少な液体や固体)を測定するパーティクルカウンターや二酸化炭素濃度計、オゾンメーターに電磁気などの測定器をトランクスペースに並べている。一体何が目的なのか俺には皆目見当が付かないが、それぞれの測定器の数値を見比べながら首を傾げている。
 半蔵門に着いたが、皇居に続く扉は開けっ放しになっている。余程慌てて避難したか、暴徒に襲われたかだろう。車は低速で用心深く敷地内に入って行く。目の前に豊かな緑が広がっているが、それはまるで要塞のように思える。工藤さんが無線で車を止めるように指示すると、隊員の乗る車両の上部ハッチが開き、隊員が上半身を出して双眼鏡で辺りを見回し始めた。ざっと見たところでは異変は見つからないが、工藤さんは納得しない様子だ。全ての数値が異常らしい。喉に少し違和感を感じるのは数値異常のせいかもしれない。
 工藤さんは用意してきた防護ゴーグルとマスクを装着するよう隊員に伝え、俺たちも装着して異変に備えた。工藤さんはオゾンが異常に発生しているのが原因だと説明してくれたが、その発生源は分からないらしい。俺の知っているオゾンは人間に役立つものばかりで、毒性があるとは思いもしなかった。この豊かな緑の奥で何が起きているのだろう。俺たちは注意深く車を進めた。

 

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