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計画(6) [小説<物体>]

                                   計画(6)

 最後になった栄二君のチームは、まだ未知数で分からないと申し訳なさそうに報告した。これで終わったのだろうか、それぞれ怠そうに立ち上がり、トイレに行ったり持ってきたゲームを始めたり、まるでまとまりなく過ごし始めた。
「栄二君、これで終わり?」
 俺が訊くと、
「ええ、一応終わりましたが、あともう少しかかります」
「もう少し?」
「そうです。それぞれ勝手に過ごしているようだけど、実は凄い勢いで繋がっている最中なんです」
 栄二君はそう言うと、ポケットから漫画を取り出して読み始めた。これ以上話をするのを拒んでいるように見える。一体何と繋がるというのだろうか。栄二君は、俺や工藤さんがいることを無視するかのように漫画本を読み始めた。 

 自由な時間なのに賑やかな話し声も笑い声もない。それぞれ勝手に好きなことをして過ごしているように見える。漫画本のページをめくる音や、ゲーム機のボタンを押す音だけが聞こえる。工藤さんは黙って皆の様子を観察しているようだ。
「妙な気配ですね」 
 小さな声で工藤さんに言った。
「ああ、まるで入れ物だけ残して、中身はどっかへ行ってしまったようだ」
 工藤さんはそう言って早苗ちゃんを見た。何をするでもなく肘をついて景色を見ている。
「中身って?」
「パソコンのソフトみたいなものかね。ハードだけじゃ何の役にもたたんだろう。早苗というソフトが中に入ると活動できる」
 分かりにくい例えだ。身体と心とか、肉体と魂とか言った方がよほど分かりやすい。工藤さんは遺伝子プログラムとか、そんな意味で言っているのだろうか。
「で、その中身がどこへ?」
「ある、領域だろう」
 工藤さんは腕組みをしながら言ったが、自信なさそうに見える。
「領域………ですか?」
「そう、滅多に触れることのない領域だ。何でも揃っていて、不可能のない場所だ」
 今度は断定的に言う。工藤さんにはその<領域>が分かるのだろうか。俺にはさっぱり分からない。まるで神の住む場所みたいだ。
「その領域で何を?」
「それは分からん。だけど、何かとコンタクトしていると思う」
 工藤さんがそう言うと、部屋の中の雰囲気が変わってきた。なんだろう。俺は黙って頷き、部屋の中に漂う気配に神経を尖らせた。工藤さんも同じように部屋の気配を探っているように見える。ページをめくる音やゲーム機のボタンを押す音が消えた。誰も身動き一つしない。まるで時間が止まってしまったかのようだ。眼球を動かすことがとてつもなく大きな動作のように感じる。

 

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