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計画(9) [小説<物体>]

                             計画(9)

「空の上? 宇宙?」
 俺は窓から空を見上げるようにして訊いた。
「そうね、正しいけど両方とも違うわ。あなたの行ったところは虚空よ」
「コクウ? どういう意味?」
 祐子を見上げるように訊くと、もう一度手を伸ばして空中の一点を指さした。
「ここよ、此処に宇宙の全てが凝縮しているの。虚空ってね、東洋の数量単位。確か、小数点以下にゼロが二十程並ぶかしら。まぁ、信じられない程小さい数なの」
 祐子は自分の指先を見ながら嬉しそうに話しているが、俺には何のことかさっぱり分からない。
「その極小の虚空と俺と何の関係があるのか分からないよ」
「そうね、頭では分からないけど、感覚はもの凄く分かっているわ。だって命のふるさとだもの」
 祐子は得意そうに話しているが、俺にはまるで禅問答だ。
「俺が空を飛んで行ったところは命のふるさとってこと?」
「要するにね、そう言うこと」
 祐子はあっさり返事をすると、小さく頷いた。だけど俺には何一つ分からない。
「なんで極小の世界が命のふるさとなの?」
「大きさは関係ないのよ、命は光子と同じだから質量はないの。だから極小でも十分よ。それにね、ビッグバンの始まりは虚空だったっていう学者もいるのよ。つまり、極小の一点から宇宙は作られたってこと。極小の中に宇宙の全てが含まれているのよね。分かった?」
 こんな話をわかれという方が無理だ。俺は眠ったようになっている間に、光と同じ状態になって飛んだと言うことらしい。

「俺たちは、その、命のふるさとで何をした? 俺は何も覚えていないけど」
「確かめたの。未確認生物、ユーマの正体をね。私ははっきりしたものは感じなかったけど、マー君は何か感じたみたいなの」
 祐子はそう言うとマー君に話を訊いた。マー君はしばらく考えていたが、ゆっくり思い出すように話を始めた。
「本当に怒ってたよ。僕が感じたのはそれだけだよ。怖かった。あいつらは何でもできるよ、だって凄いエネルギーだった」
 マー君はそう言うと祐子にしがみついた。
「あいつらに遭ったの?」
 マー君の目を覗きこむように訊いた。
「遭わないよ、だって見えないから。でも近くにいたことはわかった。何かを始める気だよ」
 マー君は声を小さく震わせながら言った。
「栄二君、君はどう思う?」

 工藤さんが訊いた。 いつの間にか、工藤さんや栄二君も近くに来てマー君の話を訊いていたのだ。
「僕もマー君と同じですね、マー君の感じている怖れは憎しみでしょう。なぜだか、ユーマから感じるのは途方もない憎しみの感覚で、突き刺さるような感じです。マー君はまだ小さいから耐えるのはきついと思います」

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