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ゲーム(13) [小説<物体>]

             ゲーム(13)
            
「これです」
 男がモニターを指さした。
『遠い過去のことである。襄の国の東、亥輪羅山に、宙の深奥から光り物が現れ原型魂シバルを伴い漂着した。孵化したシバルはここに金色に輝く神殿を造営した。大空を翔る天之浮舟、不思議なエネルギーを発する謎の金属ヒヒイロカネを用いて遍く従えた。皇紀はシバルより得る。シバルを祖とする後継皇位は血脈を交えることとし、樹木を以って命とする塊を皇位に並べ尊ぶ』
 現代和訳でもよくわからない。工藤さんを見るとやはり俺と同じように首を捻っている。
「少し説明していただけますか」
 工藤さんが言った。
「これは冒頭の部分で、そして最も重要な内容が示されています。私たちの分析では、光り物はユーマであり、シバルはツリーチルドレンではないかと推測しています。つまり、皇室の歴史はツリーチルドレンから始まり、皇位継承者は、ツリーチルドレンと人間との混血だということです」
「なぜユーマはそんなことをしたのですか?」
  工藤さんは驚いて訊いた。どのモニターの前も数人の人が集まり、首を伸ばすようにして画面を見ている。
「そこがこの血脈文書を分析する上で重要なところなのですが、なぜかユーマの意図については何一つ触れられていないのです。冒頭に続いて中程では、皇位継承者の責務が事細かに記されています。責務というのは、大雑把に言えば、天皇が神として人間を支配することと、樹木とツリーチルドレンを守り育てること、たった二つだけです。そして最後の段で、責務が果たされなかった場合に起こる災いについて記されています。これは今現在起こっている事態と符合しますが、打開策は何一つ見つかりませんでした。ユーマの意図を知ることが打開策を見出す早道だと思うのですが、その意図がどうもわからないのです」
 職員はそう言って申し訳なさそうに俯いた。

「ユーマの意図って、ユーマはツリーチルドレンを連れてきて、それで樹木から生まれるようにしたんでしょう。そして天皇家に入る。だから………要するに天皇は王様だから、この国をユーマの思い通りにしたかっただけじゃないの?」
 裕子は怪訝な顔をして言った。どうしてこんな簡単なことがわからないのとでも言ってるようだ。
「ユーマの思い通りって、何?」
 俺が訊くと、
「難しく考えすぎじゃないの、人間はちょっとバカ騒ぎし過ぎて嫌われたのよ。大人しくしていればよかったのに。やたら増えすぎるし、原爆作ったり悪さばかりするしさぁ。地球の主人公は樹木なのよ」
「俺たちは救いようがないってことか。じゃあ、人間はさっさと滅びて、樹木に主人の座を明け渡せばすべて丸く収まるって事だね」

 

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