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ゲーム(12) [小説<物体>]

                (12)

「驚かれたでしょう。地下での長い避難生活を想定していますので、ストレスを蓄積しない工夫がされています。右側のドアの向こうが皇室のプライベートスペースで、正面ドアの向こうがラウンジになっています。ラウンジには皇室の方々もお見えになることがあります。血脈文書についてお尋ねがあれば、ラウンジで直接話すことも出来ると思います。皆さんにはラウンジでお待ちいただき、その間に私が文書データをディスプレイにアウトプットしてきます」
 職員はまだ俺と同じ三十過ぎの、青春の名残をどこかに潜めていそうな男だが、ここに来ると急に丁寧な口調になって話した。きっとそうやってこの研究室で過ごしてきたのだろう。
 男は俺たちをラウンジに案内すると、「何でも自由にお使いください」と言い残し、早足でラウンジを出て行った。

「政府はここの存在を知っているのですか?」
 工藤さんが別の職員に訊いた。
「ノーベル平和賞を受賞した総理大臣と皇室の間で何か話し合われたようですが、記録には一切残っていませんので、今の政府で知る人はいないでしょう。それにここは核シェルターというより、ユーマの脅威を想定したものじゃないかと………」
 職員は最後の方を口ごもるように言った。

「ずっとここにいたい!」 
 裕子がはしゃいだ声で言った。周りにある調度品や家具は、どれも品格と風格があり、接する人間のほうが謙虚な気持ちになってしまう。だけど裕子はまるで遊園地の遊具のようにソファーに座って喜んでいる。ほかの人たちも室内を歩き回ったり、調度品を宝物にでも触るように手に持って眺めたりしている。広さはどの位だろうか、中央の大きな柱が天井を支えているが、あの柱が無ければテニスコートを一面作ってまだ左右に余裕があるだろう。こんなところにいると本当にユーマのことを忘れてしまいそうだ。
 部屋の奥を見ると、数台のモニターと端末が見える。きっとあのモニターを使うのだろう。工藤さんも気がつきモニターの前の椅子に座っている。

 しばらく皆の様子を眺めながら待っていると、先ほどの男がやって来て端末を操作し始めた。
「これです。これが天皇家に代々伝わり、天皇ただ一人しか見ることを許されなかった血脈文書です。原典は神代文字で記されていて、後世の天皇が、それを漢字を用いて翻訳しました。これは、更に研究用に現代和訳したものです。ゆっくり読んでください」
 そう言って残り六台のモニターすべての電源を入れた。

 

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タグ:神代文字
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