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ゲーム(11) [小説<物体>]

            ゲーム(11)
                         
「そろそろ動きましょう、余り同じところにいると危険かもしれません」
 ここの地下研究所から洞窟へ移動した職員が言った。市ヶ谷の駐屯地から装甲車で来たことのある道だが、今回は職員がいるからからルートは案内してくれる。

 自衛隊と一緒に来たときとは別のルートを通り、しばらく進むと大木に囲まれた小さな建物が見えてきた。ここへ入るまでの景色とはまるで別世界のようだ。
「荒れた形跡もないし、オロチもいない。どういうことだ」
 工藤さんが独り言のように言うと、
「もうオロチはいなくなったと思う」と、ひかる君が答えた。
「どうして?」
「ユーマがね、もう要らないって決めたんだよ。だからみんな土に帰ったんだ」
 ひかる君が窓から外を眺めながら言うと、工藤さんは黙って頷き、ひかる君と同じように窓から外を見ている。
 もしそれが本当なら、俺たちが生き残った獣のような人たちを祈らせることが出来れば全て終わる。ユーマの憎しみに祈りが勝てばいいのだ。

 飾り気のない小さな平屋建ての建物は、屋根の上まで大木が枝を伸ばし、おそらく空から見れば発見するのはかなり難しいだろう。バスから降りて近くまで行くと、外観から見るイメージとは違い、かなりしっかりした造りになっていることがわかる。噂で聞いていた核シェルターの入り口なのかも知れない。
「ここが研究所の入り口になりますが、万が一の場合には、ここから避難スペースにも繋がっています」
 職員はそう言うと、セキュリティーを解除し、重そうな扉が静かに動いた。最初の部屋は警備室のようで、モニターが何台も並び建物周辺や、皇居内を映している。職員はコントロールパネルを操作したり、モニターをチェックして安全を確認しているようだ。
「皇室と側近が、地下の専用シェルターにいます。私たちの動きはもうわかっているでしょう。研究室まで案内したら私が状況を報告しておきます」
 職員は話しながら慣れた手つきでキーボードを叩いた。

 次の部屋に、地下へ繋がる大型のエレベーターがあり、全員が乗ってもまだ余裕がありそうだ。俺たちが自衛隊員と一緒に入った入り口とはまるで違う。まるで映画で見るような秘密軍事基地のようだ。階数表示はなく、ただオレンジのランプが縦に三つ並んでいるだけだ。その一番下のランプが点灯するとエレベーターはゆっくり止まった。俺たちが入った研究室はせいぜい地下一階程度だが、まだその下に研究スペースがあったということだ。

 エレベーターの扉が開いた。我が目を疑うとはこのことかも知れない。まるでホテルのロビーにでも入ったようだ。床には柔らかい絨毯が敷かれ、壁の間接照明が優しく俺たちを迎えてくれる。地上の凄惨な景色が夢なのか、今、目にしているものが夢なのかわからなくなりそうだ。

 

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