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イメージ(2) [小説<恋なんて理不尽な夢>]

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「一美、目なんか閉じてどうしたの、もしかして思い出してた? 性奴隷のこと」
 慌てて隣を見ると、絵里子が横目で見ながら笑っている。
「違うわ、ちょっと疲れただけよ」
 そう言って睨み返すと、絵里子はクスリと笑った。
「普通は疲れが取れてすっきりするのよねー」
 絵里子はわざと私を見ないで言うと仕事を始めた。その横顔はまだ笑っているように見える。もう一度目を閉じてみようかと思ったけどやめた。また絵里子に誤解されてしまいそうだ。別に誤解されても構わないけどなんだか癪に障る。それにもっと落ち着いて試してみたい。イメージを上手くコントロール出来るようになれば、もしかしたら元の世界に戻れそうな気がした。でも今の世界で困ることはなさそうだしそう慌てることもないわ。ミニブタにさえならなければ、それはそれで楽しいしもしかしたらここは理想郷というか………天国! 私が創り出した天国? そうよ、まず時間が無いわ。それに自分の行きたい世界に行くことが出来る。これって生まれ変わりの中継点ってことなの? あぁ、もう嫌! 私の頭じゃ理解出来ない。でもいいのよ、このまま流されていればいずれわかる筈だわ。そうよ、そのうちきっと解るわ。

 午後の仕事はいつもの日常と同じで、退屈な単純作業が続いた。ひたすら伝票を整理し金額をはじきだす。そしていつの間にか日が暮れていつの間にか仕事が終わる。退社のチャイムは聞いたことがない。何となく終わった気分になったら帰ればいい。そんなことが何となく理解出来る。絵里子に訊かなくても自然にこの世界の約束事が解ってきた。ああ、そうだったと思い出したような感覚だ。別の世界で死にかけている私が経験している天国という中継所なら………死にかけた私の身体を蘇生させることも出来そうな気がする。
「帰るわ、また明日ね」
 絵里子が帰り支度を整え部屋を出て行った。いつの間に着替えたのかしら。部屋の中を見回すともう半分ほどしか残っていない。俊介もいつの間にか姿が見えなくなっている。
元の世界なら3時間は過ぎているはずなのにその感覚がすごく曖昧で、どんな仕事をどれほど処理したのかも曖昧な気がする。だけど一日の仕事を終えた感覚は妙にはっきりわかる。これって何だろう。なんだか都合が良すぎる。
 足音が聞こえてきた。薫に違いない。私を迎えに来たのね。一緒に帰って一緒に食事をして一緒に眠る。身体は別々でも一緒ってことね。と言うことは………別の世界に行っても薫とはずっと一緒なのかしら。
「そうよ、一美とはずっと一緒なの」
 薫がドアを開けながら言った。
「私が思ったり考えたりしたことは薫には筒抜けなのね」
「解ってきたみたいね、そのうちもっと思い出すわ」
 薫はそう言って笑って見せた。
「薫だけ知ってるなんてずるいわ、何でも全部教えてよ」
 私が薫を睨んで言うと、
「教えてもいいけど、聞いたことは忘れてしまうの。肝心なのは思い出すことなのよ」
 知ってるなら教えてくれればいいのに、薫は意地が悪い。
「私が意地悪だって思ったでしょう、でもね、一度聞いてしまうとね、かえって思い出すのに時間がかかってしまうわ。だから聞かない方が結局いいってことなのよ」
 薫の言うことはなんだかカチンと来る。
「だったらいいわ、薫は私のガイドなんだし、素直に言う通りにすればいいのね」
「学習したわね、さぁかえりましょ」
 やっぱり流されるしかないのね、ここが天国だとしても結構ウザイわ。薫を見るとまた笑っている。やっぱり筒抜けなのね。

 

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