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吹き溜まり(4) [小説<ろくでもないヤツ>]

                    吹き溜まり(4)

 だけど新顔に関心のありそうな奴は一人もいないし、どの顔をみても何を考えているのかさっぱり分からない。たとえ話しかけたとしても楽しくなさそうだし、それならその方が俺にとっても好都合でいい。余計な気を遣わなくて済むし、俺の無愛想な態度がここでは当たり前で目立たない。俺も皆の態度を真似るようにわざと乱暴にハンバーグを食べ、黙々と食事を口へ運んだ。ほぼ食べ終えた頃に最後の一人が戻り、冷めたハンバーグの前に座った。確かヤブと呼ばれ、階段を上ったところの部屋にいた男だ。他のヤツらは皆日焼けしているのにこの男だけは青白い顔で、一日中部屋の中に篭もってエロビデオでも見ていそうだ。

「君だっけ、知念君?」
 ヤブと呼ばれた男は下を向いたまま小さな声で訊くと、ハンバーグに大きな口を開けて食いついた。
「そうだけど、君は確かヤブなんとか・・・」
 と、正面に座っている男の頭頂部を見ながら言った。
「藪田、みんなはヤブって呼ぶ。知念君は奥の部屋だったよね、後で行ってもいい?」
 藪田と名乗った男は顔を上げると、箸でハンバーグを掴んだまま俺の顔を見て言った。もっと神経質そうな男かと思っていたが、顔の印象とは違い瞳には素直そうな光を感じた。
「いいよ、でも散らかってるから座るところもないよ」
「どこの部屋も同じさ、たこ部屋だからね」
 藪田はそう言うとにやりと笑った。店長の奥さんがたこ部屋という言葉に反応したのか、一瞬だけ俺たちを振り返って睨むように見た。それ以上は何も話さず俺が先に食べ終えると部屋に戻った。

 お腹が満たされ眠気に襲われたが、我慢して部屋の片付けをした。片付けと言っても荷物を部屋の隅に寄せるくらいしかできない。まだパソコンはネットに繋げないしテレビはないしゲームもできない。パソコンとゲームとテレビが使えないと何をやっていいか分からない。ギターを弾くという手もあるが、このたこ部屋では壁が薄そうで来た早々弾くのはいくら俺でも気が引ける。そういうのはここに住んでいる連中の様子を見てからにした方がいいだろう。

 横になって漫画を読み始めたとき、占い師に言われた運命を味方につける方法を思い出した。あの占い師は言う通りにすれば間違いないと言っていた。今から思えばどうしてあの時あんなに涙が出たのか分からないけど、とにかくあの負け犬占い師に俺の中の何かに素手で触れられ、涙の栓をポンと抜かれたような気がする。俺の一番弱いところを見破られたような気分で、嬉しいような腹が立つような妙な感じだったのを思いだした。占い師の言うことをあっさり信じたわけじゃないけど、たまたま帰り道に文房具屋があり、店の一番奥に石のコーナーがあってそこで小さな水晶玉を見つけた。値段も三千円と手頃で、それならとアンデス産の塩も買いそろえた。確かリュックに入れたままになっているはずだ。

 部屋の北に塩を盛って、朝起きたら舐めて………それから太陽を額に浴びて……だった。
夜は水晶を十分間見続けるとか言っていた。塩を盛るというのは大阪で婆ちゃんがやってたから、何となくいいことのような気がするけど具体的に何に効くのかよく分からない。でもまぁ、やらないよりはいいだろう。 

 

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