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退行催眠(3) [小説 < ブレインハッカー >]

ロバート・モンロー「体外への旅」―未知世界の探訪はこうして始まった! 
ロバート・モンロー「体外への旅」―未知世界の探訪はこうして始まった! (単行本)
ロバート・モンロー (著), 坂本 政道 (監修), 川上 友子 (翻訳)

1915年米国生まれ
1995年死去

1950年代より米国にて独自の音響技術を用いた体外離脱に関する先駆的な研究を行う。1974年に米国バージニア州にてモンロー研究所を設立し約四〇年以上に渡り人間の意識とサウンドの関係を研究する。

 

          退行催眠(3)

 話し終えた由美は目を少し潤ませていたが、しかし表情には懐かしさを浮かべていた。。
「その人生と今の岡村さんと何か繋がりを感じることはありますか」
「ええ、そのことがやっと判ったんです。初音の記憶はあまりに強烈すぎて、何度生まれ変わっても消えることはなかったんです。そのしこりは本人でさえ気づかずに、でも執拗に命の奥で疼いていたんです。初音の人生は龍神の池で終わらず、今も私の中で救いを求めていたんです。ずっと胸につっかえていたものがすっきりしました。私が幻覚で見ていたのは間違いなく初音の人生でした。それに夫とは初音の人生だけではなくて、その後何度も一緒に暮らした人生がありました。もちろん出会えなかったこともありましたが、殆どは兄弟や親子、夫婦のような近い肉親で出会っていました。でも何故かいつも二人で暮らせる時間は短くて、とても苦しい別ればかりを味わってきました」

 由美はそこまで話すと、窓の外に目を向けて少し考えていたが、
「でも、初音はどうすればいいのか気づいているような気がするんです。近い内にきっと答えが分かると思います」
 と由美らしく快活に言った。
教授は頷いたりしながら黙って聞いていたが、
「今の人生で伊蔵さんに出会ったような感じはしますか」
 と訊くと、由美は、
「さぁ………」
 と首を傾げながら、
「もしその伊蔵さんに出会うとどんな感じがするんでしょうか」
 と教授に訊いた。
教授は困ったように笑いながら、
「何か目印でもつけて登場してくれればいいのですがね、突然電気が全身に走ったなんてことが起きるかもしれませんよ」
 と言った。
由美は二人を振りかえるようにして見ると、
「ねえ、伸也は信じる、私の話」
 と、まだ何が起きたのか十分に頭の整理のつかない伸也に訊いた。

 伸也は暫く何も言えなかった。由美から断片的に聞いていた幻覚の話が過去世のことだったとは予想もしなかったのだ。まして伊蔵という男と何回も人生を共にしたなんて。
「つまり、その、由美は今までに何度も生まれ変わって伊蔵と言う人と暮らしたんだよね、その伊蔵という人も何度も生まれ変わって由美と暮らしたってことなのか………それで、由美の記憶の中には初音という人の強烈な思い出が残ってて、それが幻覚となって顕れると言うことだよね。よく分からないけど、由美は初音という人に幻覚を見せられているということなの、何か目的があるの?」

 伸也は首を傾げながら言った。
「初音と私は生きた時代が違うだけで、命は同じなのよ。
 だから、私の命が私にメッセージを送っているということなの…………だと思うけど」 と、由美は話しながら少し自信が無くなってきた。メッセージではないかとの思いは以前から感じていたが、それが初音の体験から来ていることが分かった今も、由美にはやはり得体の知れないもどかしさは依然として残っていた。

<私は何をすればいいの?>
 これが知りたいのだ。
「じゃぁ、少し休んだら三浦さんにしましょうか、よろしいですか」
 と小野教授は伸也を見て言った。
伸也は由美だけと思っていたので少し慌てた様子で、
「あ、はい、いいんですか」
 と答えた。
「私も出来るだけ沢山の事例が必要なんですよ、岡村さんも三浦さんも事例としてはかなり珍しいタイプですからね、幻覚と体外離脱者の退行催眠は私も興味があるんですよ。でもこういっちゃ失礼ですけど、本当に珍しいお二人ですね」
 と面白そうに笑った。

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