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退行催眠(2) [小説 < ブレインハッカー >]

スパイラル(通常盤) スパイラル(通常盤)
~ 上原ひろみ (アーティスト, 演奏), トニー・グレイ (演奏), マーティン・ヴァリホラ (演奏)

TV「情熱大陸」で初めてその姿を目にした。演奏凄い!

すぐにネットでこのCDを購入。不思議、このエネルギー!と弾ける才能! 

 

1979年静岡県浜松市生まれ。

6歳よりピアノを始め、同時にヤマハ音楽教室で作曲を学ぶ。国内外の「ユニセフチャリティコンサート」「ジュニアオリジナルコンサート」等に多数出演。 17歳の時にチック・コリアと共演し、絶賛される。

1999年ボストンのバークリー音楽院に入学。在学中にジャズの名門テラーク・レーベルと契約。2003年にアルバム「Another Mind」で世界デビューし、欧米でのライブ活動をスタート。同年5月にバークリー音楽院を首席で卒業。

2004年春にはセカンドアルバム「Brain」をリリースし、アメリカの「サラウンド・ミュージック・アワード<ニュースター賞>」を受賞。

2005年、活動の拠点をボストンからニューヨークに移す。2006年はサードアルバム「Spiral」を発売し、「ミラノ・コレクション」での演奏や、「ボストン・ミュージック・アワード<ベスト・ジャズ・アクト賞>」を受賞するなど活躍。

2007年は新たにギターを加えたプロジェクトとして「HIROMI'S SONICBLOOM」を結成し、アルバム「Time Control」を発売。世界最大のフェスティバル英「グラストンベリー・フェスティバル」に出演するなど、全米・ヨーロッパ・中東などの各国でのツアーを行った。

そして2008年、新作「ビヨンド・スタンダード」を5月28日に発売。ニューヨーク・ブルーノートでの4年連続一週間公演や、ハリウッドボールでの「PLAYBOY JAZZ FESTIVAL」などが予定されている。

日本においては、2003年にTBS系「情熱大陸」に出演し話題となり、2003年度「日本ゴールディスク大賞」<ジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤー>を受賞。(   http://www.hiromiuehara.net/  )

 

                 退行催眠(2)

 暫くすると教授は小さな声で由美に何かを訊き、由美も小さな声で応えているが、よく聞き取れない。そんなやりとりが暫く続くとまた眠っているように静かになった。もう終わりかと思いかけたとき、突然由美が、悲痛な声を出し目を開けた。
 視線は虚空を彷徨い瞬きもせず、そのくりくりした大きな瞳は見る見る涙で溢れそうになった。そして静かに目を閉じるとぼろぼろと涙が頬を伝い、両手で顔を覆いただ泣き続けていた。泣き続ける由美を三人の男達はただ黙って見守っている。教授は由美をその悲しみの世界から引きずり戻そうとはせず、悲しみの嵐の過ぎ去るのを待っているように見える。

 由美のすすり泣く声が小さくなると、教授は何かを話しかけ、由美も小さな声で応えると再び深い眠りに落ちたように静かになった。教授は最後に心地よく目覚めるように暗示を与え、由美の肩を軽く叩くと目覚めた。暗示通り爽やかな気分であることは、由美の表情から見て取れる。

 由美は胸を大きく動かして深呼吸をすると、伸也の座っているソファーの方に向き直ると、待ちきれないように話し始めた。
「やっと判ったわ。私は何回も生まれ変わって、何回も人生を生きたのよ。その中でどうしても忘れられない記憶が私の中にあったの。それを見つけたのよ。私は前の人生でも、その前の人生でも、そのまた前の人生でも、いつも思い出していたのよ。何度生まれ変わっても忘れたりしなかったわ。あれから私は何度も何度も生まれ変わって人生をやり直していたの。でも心の底から満足できる人生なんて一度もなかったわ、いつも何かが足らなかったの。でも今は何が足らなかったのか判ったような気がするの。とても不思議な気分だわ」

 と、内から込み上げてくる感情を押さえきれない様子で話した。
教授は高揚する由美を見ながら、
「少し質問して善いですか」
 と、落ち着かせるように静かな口調で聞いた。まるで何事もなかったかのような話しぶりは、由美以上に由美の経験したことを知っているように思える。

「あなたが一番印象深く思い出した人生では何という名前でしたか」
 と教授が聞くと、
「初音と言う名前で夫も居ました」
 と迷うことなく応えた。
時代を聞かれると、
「よく分かりませんが、随分昔です。私の夫は侍ではありませんが、いつも戦っていました。私たちの村が都の兵隊に無茶苦茶にされてしまったんです。それで夫や若い者が山深く隠れて、夜になると都の人々を襲うようになったんです。リーダーは都を追われてきた若い僧でしたが、武術や戦術にも長けていて瞬く間に都の人達から恐れられるようになりました。だけど村には何時も都の兵隊が居て、不安な戦いの時代でした。とても悪い時代です。」
 と、まるで昨日の出来事のように話した。

「あなたの夫とその僧は何という名前ですか」
「私の夫は伊蔵と言います。僧は童子と呼ばれていました」
「初音という名前で生きた人生にはどんな思い出がありますか」
 教授の質問は淡々とした調子で続く。

「初音の人生は………後悔です。私は都の兵隊に騙されたんです。主人達の居所を教えれば村の若者は皆助けると言われたんです。悪いのは童子だけだと。いずれ都の兵隊に皆捕まってしまい、夫は殺されてしまうのではないかと恐ろしくて恐ろしくて耐えられなかったんです。
 私は兵隊を案内して山に入り、いつも食料を届ける場所まで行くと、夫が敏捷な足取りでやってくるのが見えました。まだ一緒になって半年余り、戦いのせいで夫婦らしい生活はほんの僅かでした。私にとってはこのときだけを何よりの楽しみに生きていたのです。だけど夫は隠れている兵隊に気づくと、慌てて立ち去ろうとしました。木々の間に姿が見えなくなるとき振り返って私をじっと見つめました。視線が合ったとき騙されていたことに気づいたのです。夫への愛着が兵隊の嘘を見抜けなかったのです。もう二度と夫の姿を見ることは出来ないと思いました。夫の眼差しをあれほど哀しく、そして優しく感じたことはありませんでした。

<逃げて!>
 と叫んだときには兵隊は刀を抜いて夫の方に走り出していました。私の横を兵隊が駆け抜けたとき夫の姿はもう何処にも見えませんでした。私は何処をどうやって歩いて帰ったのか覚えていませんでした。次の日の朝兵隊は夫の首を村の入り口に吊したのです。他の九人が無事だったことがせめてもの救いでした。

 私は夫の首を返してくれと土下座して頼みましたが聞き入れられませんでした。髪の毛一本でもいいからこの手で触れたかったんです。気がついたら神社の裏にある龍神の池に居ました。子供の頃よく遊んだところです。腰の辺りまで水の冷たさを感じたとき、幾重にも連なる山々をとても美しいと思いました」

 

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