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第2章 その(17) [小説 < ツリー >]

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                              第2章 その(17)

「二人ともどうにかなってしまったらどうする?」
 俺は、冗談のつもりだが、半分は本気で訊いた。
「生きて呼吸している人間が一番強いのよ、妖怪だろうが、悪霊だろうが、怖くないわ、それにね、悪霊がもしいるなら、善霊もいるはずよ。人間の世界だって、悪人はいるけど、もっと多いのは善人よ、善より悪が強いなんてはずない。さっきは心の準備が出来てなかっただけ。準備さえ出来ていればね、そう簡単に空気みたいな奴に惑わされることないわ、大丈夫よ」

  ついさっき、あれほど恐ろしい思いをしたのに、ケロリとした顔で強気なことを言う。
俺を心配させまいと強がっているのかも知れないが、そう言われると、気休めでも幾分気持ちが楽になる。コップに注がれたワインを飲み干すと身体を横にして美緒を見た。
「もう、おしまい?弱いのね」
 そう言いながら、美緒も一気に飲み干すと俺の方を向いて横になった。
しばらく、微笑むようにして見つめ合っていたが、俺が美緒の身体を抱き寄せると、美緒も目を閉じて顔を俺の胸に埋めるようにした。
 美緒の足を俺の両足で挟むようにすると体温が伝わり暖かい。
髪の毛を、まるで子供を可愛がるように優しくゆっくり撫でた。柔らかく、少し潮の香りがした。

   この古びた社務所の古びた部屋、薄暗い電球に照らされ眠っている。吹き付ける風は夜が更けるほどに強くなり、立て付けの狂った窓を揺らし、些細な隙間から風が吹き込み、次第に室温を下げてしまう。途中で目覚めた俺は、横で眠る美緒を見た。もう一度抱きしめたい衝動に駆られたが、心地よさそうな寝息を聞くと、そのまま目覚めさせないように気をつけながら寝返りをうった。

  美緒は強気なことを言っていたが、あの言葉が気になる。確かに美緒は<かわれ>と言った。
いくら考えても、その意味が分からない。何者かが美緒の身体を使ってしゃべらせたのだろうと思う。どうして俺は急に外に行きたいと思ったのか考えるが、自分でも分からない。単なる気まぐれだったのだろうか。気まぐれにしては強引すぎたと思う。迷わずあの杉のところへ行こうと思ったことも、振り返ると不可解に思える。。わざわざあの場所に行く必要は無かったはずだ。気まぐれにしても、ほんの少し外に出て、暗闇の妖しい雰囲気を感じることが出来ればそれで十分だったはずだ。

  そう言えば、美緒と出逢ったときも、何かに突き動かされるように部屋を飛び出し、あの桜の木へと向かったのだった。自分の意志のようで自分の意志でない。俺の中に何かが宿っていると言われたことを思い出した。宿っていると言われても、自分ではそんな風に感じないし、自分は自分で、他の何者でもないと思う。

  だが、振り返ると、何者かに操られていると言われても、否定できないような事がある。
それは、桜の木に限らずとも、よく思え返せば日常の中にたくさんあるように思えた。
 そう考えると、自分とは一体……何者なのか。
自分は自分だと言い切れる自信がないし、自分をコントロールする自信など無い。片岡さんが言っていたように、俺は自分探しで右往左往しているのだろうか。美緒がサムシングを信じると言っていた。サムシングって何だろうか。
 そんな考えが、頭の中で結論の出ない堂々巡りを始めた。


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