SSブログ

第2章 その(18) [小説 < ツリー >]

キャバレー 創作小説ランキングサイトに登録しました。よろしければ下記リンクをクリックお願いします。http://www.webstation.jp/syousetu/rank.cgi?mode=r_link&id=3967

 

 

 

 

                            第2章 その(18)

「大変起きて!」
 美緒の慌てた声に目を覚まされた。
「もうすぐ叔父さん来るわよ」
 驚いて時計を見ると、十二時を少し過ぎていた。お祓いの儀式は一時だと言っていたことを思い出すと、身体がバネ仕掛けのように跳ね起き、無言のまま身支度を始めた。
 
 布団を押し込み、窓を開けてようやく一息つくことが出来たのは30分前、美緒が食事の用意が出来たと、昨日の残り物を暖めて持ってきた。何か気恥ずかしい感じがする。親友と呼べるほど知り合ってはいないが、夫婦のような気もするし、恋人と言えばそうでもあるし、さようならと別れれば、何事もなかったように消えてしまいそうな気もする。いずれにしてもあやふやな感じは捉え所がない。

 室内のカレーやら、ワインの香りが消えた頃に片岡さんが、絹恵婆さんと一緒にやって来た。
「祐介君、紹介するよ、神社を下りたところの右側にある家、そこの宮部絹恵さん、皆からはおきぬさんと呼ばれている。祖父の代からここの巫女さんをしていて、もう十年ほど前に引退して独りで住んでいるんだ」
 婆さんは紹介されると曲がりかけた腰を更に深々と下げ、
「昨日は悪かったね、リュウの知り合いとは知らなかったから、失礼なことを言って」と謝った。
「どう?」
片岡さんが婆さんに尋ねた。
「リュウの言うとおりだね、やっかいな奴がいるような気がする」
「やっぱりそうか」
片岡さんはしばらく考えていたが、
「おきぬさん、三坂の黒松のお祓い覚えてるかい」
「忘れるもんかね、あれで私は目を失ったんだよ」
 婆さんはそう言うと、ゆっくり顔を上げた。

「若いの、祐介さんと言ったね、昔、隣村で7人の若者が自殺をした年があってね、その時お祓いをしたのが、三坂の黒松。たいそう立派な黒松だったね。自殺の元凶がその黒松だって見抜いたのは、リュウの爺さんで私の師匠。リュウの親父もあの時はまだ若くてね、危うく八人目になるところだった。あの時とおなじ臭いだね、はっきり思い出したよ」
 婆さんは畳に腰を下ろし、美緒にお茶を入れるよう頼んだ。

「片岡さんもその臭いがわかるんですか?」
「いやぁ、俺にはさっぱりだね、これはおきぬさんにしか分からないと思うよ。多分鼻の粘膜で感じるような臭いじゃないんだよ」
 片岡さんはそう言いながら、まるで自分の母親のように婆さんの手を引いてちゃぶ台の場所を教えた。婆さんは美緒の入れたお茶を美味しそうに飲むと、まるで独り言のように話し始めた。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0