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第5章 その(30) [小説 < ツリー >]

シルバーバーチに最敬礼―霊言集を完訳した今、「謎」と「なぜ?」を取っておきの資料と文献で検証する。

 

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                                     第5章 その(30)

 美緒は、黙ってパソコンの画面を見つめている。何度も読み返しているようだ。
「わかったわ、まさかこんな事になるとは思わなかった。とにかくこのままじゃ、大変なことになるような気がするから、叔父さんに連絡してみるね」

 美緒は電話の前で暫く考えてからボタンを押した。表情を見ていると、一刻の猶予も出来ないような緊迫した感じがする。片岡さんと話す言葉の中に、信用できないとか、騙されたとか、危険という言葉が出てくる。

 そんな言葉を聞いている内に不安になってきた。俺が騙されたと思っているようだ。だけど可奈子は、身体を貸してくれれば、後はスッキリ返すと約束してくれた。その言葉に嘘はないように思うし、可奈子が俺の身体を母親に会わせ、墓参りに行かせようとするのも納得できることだ。今までの罪滅ぼしを俺にさせようとしているのだろう。
 
 その後で約束通り身体を返すつもりなのだと思う。何も危険なことはないし、身体を貸してからも俺の身体にも、加代子にも危害を加えるようなことはしなかった。いつも通りの俺と加代子の生活を俺は見たのだ。

 なのにどうして美緒はあんなに心配するのだろう。昼間の事件が気になり、美緒のことが気がかりで来ただけなのに、とんだ大騒ぎになってしまったようだ。

 片岡さんとの話が終わると、
「祐介くん、聞いてるわね、これから叔父さんが高速を飛ばしてくるから、帰らないでいるのよ。絶対帰っちゃ駄目よ、死にたくなかったらね」
 美緒は、まるで子供を叱るような口調で言った。
<死にたくなかったら?>
 俺はそんな状況とは思えない。身体は俺の部屋でピンピンしていたし、今は身体が無いけれど、それでこのまま消えて無くなるとは思えないし、むしろ快適さを感じることもある。それが、どうして死ぬなんて事になるのだろう。身体に戻ればいいだけのことだ。

「聞いてるの? わかった?」
『聞いてる。わかったけど、このままじゃ落ち着かないから、美緒の身体に入ってもいい?』
 俺はパソコンで訊いた。
「いいわ、誰かに入っていた方がいいんでしょう」

 美緒に入るのは二度目だが、最初よりも簡単に入れた。身体を重ね合わせるようなイメージをするだけで、あっという間だった。心地よさは加代子と似ているが、感覚的な部分では、美緒の方が俺の意志を伝えやすい気がする。霊媒体質と言っていたが、感受性が鋭く、俺が感じていることを自分のことのように感じ取ってしまうのだろう。


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