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予兆(4) [小説<物体>]

                               予兆(4)

 今後の仕事の対応に追われ帰宅が遅くなり、ようやく一息ついた。マー君と祐子に今日の出来事を話すと、二人とも驚いた様子も見せずにこにこして聞いている。俺が熱心に話す様子を楽しんでいるようだ。
 チーフのことや生気のことを『どう思う?』と訊くと、祐子は、
「そんなのみんな見えてるでしょう?」
 とケロリとした顔で言い、マー君は、
「チーフは大丈夫だよ」
 とあっさりしたものだ。
「なんでそんなことわかるの?」
 俺が訊くと、
「鼻から空気を出したり入れたりしてるのと同じでしょう? そんなことをどう思うって訊かれたって答えようがないよ」
 祐子は俺の質問の意味が分からないとでも言ってるようだ。
「チーフのことは?」
 マー君に訊くと、
「だって、生気が横に動いて消えたって言ったからだよ。死ぬときはね、上に浮かんだまま消えないよ。パパって何にも知らないね」
 そう言うと、祐子と顔を見合わせて笑った。

「ねぇ、ほんとに今まで生気のこと見えなかったの?」
 祐子が真顔で訊いた。
「そうだよ、普通は見えないものだよ、今までそんな話聞いたこともないよ」
 そう言うと、
「へぇー、うっそみたい。知らなかったわぁ、よくそれで今まで生きてこれたわね」
 と本気で驚いている。
「ずっと見えてたの?」
「そうよ、お爺ちゃんが死んだときも、子どもの頃飼ってた犬のケリーが死んだときも見えたよ。身体からね、すっと生気が出て暫く上に浮かんでたよ。元に戻れって思ったけどだんだん上の方に上がって見えなくなったの。みんなも見えるものだと思ってた。だって、鼻から空気入れてるかって訊いたこと無いでしょう、それと同じよ」
 祐子は自分に特別な力が備わっていることを自覚していないようだが、俺にしてみればまるで新しい自分に生まれ変わったような気がする。

 俺たち三人は家族のような暮らしをしているが、何の繋がりもなくマー君は普通の人間ではない。外に出るとマー君は出来るだけ子どもらしく振る舞っているが、三人だけの時はまるで大人のように感じることもある。それぞれの輪が次第に重なり合い、中心部に徐々に濃密な何かが生まれようとしているのではないだろうか。単なる気まぐれでも偶然でもなく、緻密に計算された何かが動き始め、俺もその動きに歩調を合わせ始めているような気がしてきた。

 

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