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悪夢(3) [小説<物体>]

                悪夢(3)

 まるで自分の足で踏みつぶしたように感じる。後輪ではそれ程持ち上がらず、小さい段差を乗り越える程度で済んだが、むしろその方が後味が悪く、内蔵が飛び出し散らばる路面が思い浮かぶ。
 ブルッと身震いしてルームミラーを見ると、皆も同じように前方を見つめている。何時飛び出してくるかも知れないトカゲ野郎とアメーバー生物にじわじわと追い詰められているのではないだろうか。アメーバーは側面ドアに張り付いて動きを止めている。祈るような気持ちでハンドルを握り、目を凝らすようにして路面を見つめながら徐々にスピードを上げると、ようやく木々の切れ目が見えてきた。あそこを過ぎると団地の建ち並ぶ区域に入るはずだ。
 街灯が見え始めてきたが、灯りの周囲には何も異変は無いように見える。とにかく見通しの良い広い場所に車を駐めたい。街灯を頼りに団地内にはいると三方を五階建ての集合住宅で囲まれた広場があった。侵入防止のポールは折れ曲がり広場の真ん中まで進んだが、辺りは静まりかえりっている。時計を見ると夜中の十二時を過ぎ、所々の窓に明かりが見えるが人の気配を感じない。ワイパーの滑る音だけが車内に響いている。車の中から四方を用心深く眺めたが、トカゲ野郎はいないようだ。俺が最初に外に出て、次に遠藤さん、健二老人と続いた。アメーバーはピクリとも動かずじっとしている。その様子を確かめながら杏子さんが早苗ちゃんとマー君を出し、杏子さんと祐子が続いた。陽介さんはアメーバーの張り付いた窓を振り返りながら、まるでかくれんぼでもしているようにそっと出てきた。アメーバーは張り付いたままだ。
「荷物はこのままにして暫く様子を見よう」
 健二老人は小声で言った。まるでアメーバーに耳でもあるような言い方だが、皆も目を見合わせ黙って頷いた。後ろを振り返りながら近くの棟まで歩きかけると、
「動いた!」
 と杏子さんが押し殺した声で言った。その場で立ち止まり見ると、アメーバーは俺たちの行動を察知したかのようにヌルリと動き、一気に車から地面にずり落ちた。落ちたところは薄暗くてよく見えない。
「急げ!」
 健二老人が言うと、皆一斉に走って棟まで辿り着いた。車からは二十メートルほど離れているが、アメーバーの動きはよく見えない。息を呑んで車の下を見ていると、街灯の光の下に動くものが見えてきた。
「こっちに来てる、私たちの場所が分かるのよ」
 怯えた杏子さんが、早苗ちゃんを抱きしめながら言った。ゆっくりだが確実に俺たちに向かっているようだ。真ん中が少し盛り上がっているようだが殆ど厚みは無く、その表面が少し波打つように見える。このままだと此処まで来るのにそれ程時間はかからないだろう。
「隣だ!」
 健二老人の声で一斉に走って隣の棟まで行ったが、アメーバーの動きが見えない。遠藤さんが、棟の入り口に設置してある消化器を取り出し、アメーバーのいる方にゆっくり歩き始めた。

 

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