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第一章(九) [小説<十九歳の呪い>]

         第一章(九)

 八月十九日 
<兄ちゃんが死んで一週間が過ぎた。まだ信じられない。父ちゃんは黙りこくったままだし、母ちゃんは台所で泣き、風呂で泣き、飯を食いながら突然泣き出す。父ちゃんは泣くなと怒る。その父ちゃんも目を赤くしている。僕だって部屋に戻ると布団に頭を突っ込んで泣いている。家の中のどこを見ても兄ちゃんを思い出す。思い出しても思い出しても兄ちゃんはどこにもいない。
 人は死ぬものだと僕は知っている。だけど、あんまりだ。酷すぎる。兄ちゃんは何の為に生まれてきたのかわからない。何もしないで死んでいった>

 九月十一日

<バカだ! 父ちゃんはバカだ! 大バカヤローだ! 全部嘘っぱちだ。兄ちゃんは何だったんだよ! わかってたなら何とかしろよ! バカヤロー! みんなバカだ!
みんな呪われて死んじまえばいいんだ! 何なんだよー 荻野家の呪いって何だよ! 兄ちゃんは犠牲になったって? 何の犠牲だよ! 僕たちの為に死んだって? そんなバカなことあるか!>

 九月二十日

<父ちゃんは何にもできねぇ、母ちゃんは泣いてばっか、僕はガラスを割った。どうすりゃいいんだよ>

 九月二十一日
 
<荻野家はクソの子孫だ。僕も父ちゃんもクソだ。何があったんだよ、はっきりしろよ! 父ちゃんは腑抜けだ。得体の知れねぇもんに負けてたまるか。今まで何してきたんだ。荻野家はバカばっかりだったのか。僕もバカになるのか。ふざけんな、僕は絶対負けねぇ>

 九月二十二日  

<もう、うんざりだ。父ちゃんの話は聞き飽きた。大昔に何があったか知らないけど、僕には関係ない>

 九月二十三日 

<あんな記録があるなんて、荻野家は本当にバカだ。あんな記録を残してどうするつもりなんだ。僕には理解できない。あんな記録は燃やしてしまえばいい。お祓いでも何でもすればいい。何で長男が十九歳で死んじまう。何で長男なんだ。何で僕と父ちゃんは大丈夫なんだ。絶対変だ。何かが狂っている。ロケットが飛ぶ時代なのに、何でこんなことが起きるんだ。あんな記録はインチキだ。でっち上げに決まっている。何か別の理由があるはずだ。きっと呪いのせいにしているだけだ> 


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