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第一章(十) [小説<十九歳の呪い>]

         第一章(十)

      九月二十六日 

<父ちゃんとお寺に行った。住職が色々話してくれた。呪いというのはもしかしたら本当かも知れない。もし本当だとしたら僕はどうすればいい。僕は兄ちゃんの死に顔を見なかった。父ちゃんが見せなかったからだ。二百年前に何があったのか誰も知らない。荻野家の跡継ぎは短命だからと、父ちゃんも覚悟しているみたいだ。バカバカしい。それなら僕にも関係するということだ。だけどいくら話を聞いてもわからない。最後には呪いだと言われておしまいになる。誰も何もわかっていない。息子を死なせた父ちゃんが一番わかっていない。わかっていたら助けたはずだ。助けなかった父ちゃんが憎い。呪いなんかに負けたりしない>


 ノートはここで終わっていた。この年から親父は日記を書いていない。
「親父は知ってたってこと?」
 お袋に訊いた。
「お父さんは何にも言わんと死んだ。お母さんにはひと言も言わんかった。そやけど、この日記を読んだらようわかる。呪いのことは知ってたんや」
 お袋はそう言って、恨めしそうにもう一度ページを開いた。
「そやけど肝心なことは何にも書いてへん。荻野家が呪われてることだけや」
 俺は窓から外を見ながら不満気に言った。
「それでも何かに呪われてることだけははっきりした。明日大本さんが来たらあんじょう見てもろたらええ。お母ちゃんはもう疲れた」
 お袋はそう言うと黙って寝室へ行った。親父が秘密にしていたことがショックだったのだろう。親父は一人で何とかしようと思ってたのだろうか。それとも諦めていたのだろうか。もしかしたら信じていなかったのかも知れない。俺だってまだ信じているわけじゃない。人間が呪いなんかで死ぬわけがないと思っている。陽子は怖いと言ってお袋の部屋へ行った。

 俺はリビングに一人残されてもう一度親父の日記を開いた。親父は荻野家の呪いを知って、どうやって今まで生きてきたのだろうか。親父が諦めたとは思えない。何かしたはずだ。だけど日記に書いてあったように短命で死んだ。四十代は若すぎる。
 タクシーの運転手が言っていたことも気になる。お袋は噂話だと言ったけど、あれも呪いと関係あるのだろうか。祈祷師は悪い念が渦巻いていると言ったし、俺の命がかなり危険な状態だと言った。俺の知らないところで、得体の知れないモノが迫っているらしい。毎日の生活を思い返してみたけど、そんな気配は何ひとつ感じないし、今だって何も感じない。もしかしたら親父も俺と同じように何も感じず、突然何かが起こって死んだのか。不本意だが、ひとまず明日は祈祷師の言葉に耳を傾けようと思う。呪いとか、念とか言われても、具体的にどういう状況なのか想像することができない。やはりどう考えても、目に見えず存在しないものが人の命を奪うとは思えない。


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