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第一章(十五) [小説<十九歳の呪い>]

           第一章(十五)

「こんなことってあるんですか? 何かの気のせいやないんですか?」
 お袋が祈祷師に訊いた。
「私も今まで色々体験してきましたけど、これほどはっきりして、これほど恐ろしい思いをしたのは初めてです。祈祷師はそう言ってルームミラーを覗き込んでいる」
「大本さんは祈祷師やないですか、何か方法はないんですか?」
 俺が言うと、
「邪悪な念を取り除くことは今までに何度も経験しました。しかし、今回は別格です。あの文書からもわかるように、こちらに一方的に非があります。霊や念と対することは勝負なのです。正と邪で言えば、こちらが邪になるんです。邪を正にすることは道理に反することです。生きた人間の世界でも、霊や念の世界でも、道理に反することは最終的に負けてしまうものです。今まで阻止できなかったのは道理に反するからなのです………」
 祈祷師は声を落として言った。
「そんなら、悪い荻野家の人間はみんな死んでしまえいうことですか? 諦めてなるようになれって、そういうことですか?」
 お袋は後ろの席から身体を乗り出すようにして言った。陽子も助手席から祈祷師を睨み付けるようにしている。
「いえ、誤解しないで下さい。私はただ、原因をしっかり認識して欲しかったのです。もしも、一方的に霊が悪いと思っていると、火に油を注ぐようなもので、相手の力を強くするだけなのです。そこの所をよく理解して頂かないと、悪い結果を招くことになると言いたかったのです」
 祈祷師はもう一度ルームミラーを覗きこみながら言った。
「それならわかりました。悪いのはうちらの方に間違いありません。それはようわかりました。そやけど、どうしたらええんですか? 助かるんですか?」
「大丈夫です。きっと助かります。でも、今はあの家には近づかない方がいいと思います。どちらか身を寄せられるところはありますか?」
 祈祷師はそう言ってお袋を見た。


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