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第1章26 [宇宙人になっちまった]

「君たちはちっぽけな宇宙しか知らなくて自分たちのことを何にも分かっていないんだ。この星はびっくりするほど珍しくて変わった星でね、宝物のようなところなんだ。そこで生きる君たちのような生物はかなり特殊なんだ。だから色んなところから見物に来るんだよ。そっと来てそっと帰るのが真っ当な宇宙人の暗黙のルールなんだけどね、中にはとんでもない連中もいるんだ。なんであんな風に進化したのか僕らにも謎なんだけど、とにかくこの星の生き物を殺すのが好きなんだ。特に人間がね。でも単純な殺し方はしないよ。信じられないほど回りくどい方法で殺すことが多いね。まるでパズルのピースを緻密にはめて最後の一個を入れる快感を求めてるみたいだね。じわじわと苦しめて殺す最悪な奴らだ。しかも正体を見せずに別の形で現れて殺しを楽しんでいるから手に負えないんだ。でも君たちは奴らの存在に気がついて、悪魔とか悪鬼とか呼び始めたんだ。しかし気づくのが遅くて後の祭りってことが多い。だからね、よくよく注意しないと騙されてしまう。本当に憎たらしい奴らなんだ」
 話し終えたエフの顔から微笑みが消えた。誰も無言のままエフを見ている。この部屋にいるのは平和に暮らす高校生で、それぞれ自由に青春を楽しんでいるのだ。身の回りのどこを見てもエフの言うような怪しげな存在はいないし聞いたことも無い。時々テレビで残虐なニュースや信じられないほど悲惨な事件を見ることがある。でもそれは自分とは関係の無い別世界の出来事なのだ。だからエフの言うことも自分にはなんの影響もない別世界の出来事のように思えるのだ。
 突然夢実が立ち上がった。
「悪魔なんてどこにもいないわ。患者の会なんて止めます。さっきの円盤は何かのトリックでエフはただの子どもよ。地球だって滅びたりしないわ。いつも通りよ」
 夢実は怒ったように言うと、絵里子の手を引っ張って部屋を出ようとした。
「待って!」
 エフの声が部屋に響いた。
「夢実さんだよね、このまま帰るのは止めた方がいいと思う」
「どうしてよ、もう関係ないんだから私の勝手よ、悪魔ごっこなんていやよ!」
 夢実はそう言うとドアノブに手をかけた。

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