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第4章05 [宇宙人になっちまった]

「弱っているけどまだいるようだね。どうしようか。悪魔は正体を見つけられるとおしまいさ。何にもできないんだ。ビームで相当弱ったからね。見つからないように逃げるつもりだったかもしれないけどね」
「でも殺せないんでしょう?」
 夢実が訊いた。
「そうだね、ほんとに嫌な奴らだよ。量子サイズのくせに、集まると悪いことばかりするからね」
 エフはそう言うとドクターの首に無理矢理ネックレスを着けた。ドクターは身体を捻るようにして嫌がったが、小さなエフの力にも負けてしまった。
「今度こそ大丈夫だ。いなくなったと思う」
 エフの前でドクターは首をうなだれ、放心したように見える。
 ドクターが怪我をしたと連絡すると、休憩中の当直医が来て見てくれた。その頃には自分で話せるようになり、適当にごまかしてその場を取り繕った。頭に包帯を巻かれ大けがのように見える。しばらく休憩して和歌山の話を再開した。
「ありがとう、みんなのおかげで助かった。悪魔に殺されてたかもしれないね。逃げ出したい気分だけど話を続けよう」
 ドクターはそう言ってエフに和歌山の様子をもう一度訊いた。
「さっき話したとおりだけどね、とにかく山奥で近くには誰も住んでいないよ。壊れかけた家が数軒あったかな。空から探さないと絶対見つからない場所だよ。そこはね、木が倒されて丸く平らになっているんだ。その周りには高い木がいっぱいあってね、それだけでも見つからないのに、内側は高い塀で囲まれているんだ。その中に壊れそうな大きい建物が一つだ。若い男女を数人見たかな。サードブレインは三人だけで、あとはノーマルだった。みんな完全に操られていた。あとはね、地上に降りて確かめるしかないと思う」
 エフは見たことを簡単に話してくれた。特にいい考えがあるわけではないが、奴らが何を企んでいるのかわからないことには動きようがない。何もしなければ奴らは沢山の人が死ぬようなことを仕掛けてくるのは間違いない。
 敬一は窓の外を見た。夕暮れ前の西の空から黒雲が近づいている。天気予報通りだが、敬一にはそれが悪魔の大集団に思えた。病院がすっぽり悪魔に取り囲まれてビームもネックレスも、何もかも役に立たなくなってしまうのだ。俺たちは狂ったように仲間同士殺し合う光景が目に浮かぶ。慌ててその光景を押さえ込むが嫌な余韻だけが残ってしまった。
「明日、君たちのグループで行ってもらえるだろうか」
 ドクターは陽介を見て声をかけた。敬一は慌てて視線を室内に戻すと、夢実も絵里子も小さく返事をしている。敬一もやや遅れて返事をした。ドクターが悪魔に殺されそうになったのを目の前で見たせいか、少し不安になってきた。ネックレスがあれば安全だと思っていたが、ドクターのようなこともある。スーツを着ていても安心できないし、気は進まないが自分たちにしかできないのだ。
 エフとは明日の十時に桜ヶ岡公園で待ち合わせることにした。この前のようにすぐピックアップしてくれるだろう。乗ったら一瞬で和歌山上空に行けるらしい。

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