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第5章02 [宇宙人になっちまった]

 エフが合図をすると次の瞬間には地面の上に立っている。妙な感覚が残る。場所は見つかりにくいユンボの裏だ。しばらく隠れて辺りの様子を探った。陽介が携帯で撮影し始めているが、物音がしない。もう少し人の気配とか動く音とか話し声とかが建物から漏れてきても良さそうだ。耳を澄ませても聞こえるのは枝を揺らす風音とか、森に響く鳥の鳴き声くらいだ。これが別荘なら申し分ないくらいリラックスして午睡を楽しめるだろう。だがここは悪魔の巣窟だ。人の命を苦しめて奪って喜んでいる。悪魔に頭を乗っ取られて操られている数人とサードブレインが三人いるはずだ。まずはサードブレインがどこにいるのか確認したい。
 敬一が先頭に立ち、その後ろに夢実、最後に陽介が携帯を左右に動かしながら歩いている。建物の側面に窓があり、その下にたどり着いた敬一は陽介に中の様子を撮るように小声で言った。陽介は頭を出さないようにカメラだけを窓の端に差し出した。数秒撮影して動画を観たが、二人とも声を出しそうなほど驚いている。
「この子……あの池田綾音、天文部の部長の綾音?」
 敬一が手で口を覆いながら訊くと、陽介は顔を何度も上下に動かした。もう一度動画を観ると、池田綾音らしい女の子と男子三人が何か話をしているように見えた。どう見ても池田綾音にしか見えないが、こんなところにいるはずがない。もしかして彼女も悪魔に取り憑かれてしまったのだろうか。エフが電磁波を照射しているから中にいる悪魔は思考力も運動能力も落ちているに違いない。それにいざとなれば俺たちにもビームが出せる。忍び込めそうだと思ったが、数人の所在が不明だから軽はずみには動けない。エフに様子を訊くと、どこにも人の動きは見えないらしい。敬一の見ている部屋の四人だけらしい。どこかに出かけたのだろうか。しかしここを出た形跡はない。どこかにいるはずだ。嫌な予感がしてきた。どこかに気配を消して身を潜めているのだろうか。
 敬一は裏口に廻ることにした。中に入る前に十分周囲の様子も見ておきたいし、外から観察できることもある。二階建ての長方形の建物の側面に沿って移動した。土がむき出しでフェンスの近くは雑草が伸び、車の駐車スペースは土が踏み固められている。通路は獣道のようで、蛇のようにくねりながら裏口に続いている。それ以外の場所は雑草が伸び、刈り取られた形跡もない。
 裏側にたどり着いたが、やはり人の気配はしない。いるとしたら後は二階部分だけだろう。一階部分は他の部屋も用心深くのぞいたが誰もいなかった。裏口のドアの前に座り、壁に耳を当てたが足音一つしない。数人いるはずなのにこの静けさはなんだろう。ドアを開けて中へ侵入するには怪しすぎる。監視カメラの存在も気になる。自分たちの動きは、モニターでニヤついた男たちに監視されているのかもしれない。そうだとすれば飛んで火に入る夏の虫だ。まんまと罠にかかってしまう。

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