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ツリー 第1章 その(1) [小説 < ツリー >]

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              「ツリー」 第1章 その(1)

 その日は哀しかった。無性に哀しくなってしまった。こんな時は布団を頭から被り哀しみ通り過ぎるのをただ待つしかない。祐介にはこの哀しみがどこからやって来るのか解らなかった。きっと何かの呪いに違いない。窓の外には冷たい風。祐介は布団から目を出し、揺れている桜の小枝を見た。まだ芽が小さい。その尖った芽が突然憎悪を露わにし、弾丸のように窓を突き破り喉に突き刺さる。血液は気管に満ちてゴボゴボと音を立てる。目に入るものは全て自分を攻撃してくるに違いない。

 祐介は腕に爪を立て血が滲み、その血をシャツにこすりつけるとまた頭から布団を被って闇の中に潜り込んだ。闇の中に蛙がいて不遜な態度でこちらを睨んでいる。片手で鷲掴みするとぬるぬるした感触とお腹のぶよぶよした感触が伝わってくる。蛙の肛門に爆竹を無理矢理押し込むと、蛙は後ろ足で空気を懸命に蹴り逃れようとする。藻掻く姿を満足げに眺めると導火線に火を付け、爆発寸前に空中に放り投げた。空中で白い腹を見せた時火薬がボッっと低い音を立てた。

 下半身は闇の中に飛び散り、上半分が足元に落ちると内臓を引きずりながらつま先に這い上がってきた。足で踏みつけると残った内臓がところてんのように綺麗に押し出され滑稽な押し花のように見える。こいつの呪いに違いない。

 目覚めたのはブルーの薄れる時間、深夜2時。頭は一番すっきりするが、正体の分からない哀しみは依然として祐介の心の端を掴んでいる。だがこんな事はもう日常なのだ。闇の中に葬った生き物は数知れない。これから外に出て、夜が明ける少し前に部屋に戻ってまた眠る。こんな生活がもう三ヶ月ほど続いている。順調に行けば今春には大学を卒業出来るはずだが、その見通しもない。

 

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