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第2章 その(21) [小説 < ツリー >]

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                      第2章 その(21)

 婆さんは、下を向き黙って聞いていたが、顔を上げて俺に話しかけてきた。
「祐介さん、自分に起こりかけてることがわかったかね、あんたには、何かが入りかけているんだろう。リュウから聞いた魔桜か、もしかして別のものかも知れない。どっちにしてもねぇ、このままじゃ、隣村の若者と同じだね。気が変になって死んでしまうか、身体を乗っ取られてしまうかのどちらかだろうと思うよ」
 婆さんは話しながら、顔を傾けるようにして俺の気配を探っているのがわかる。

「ええ、まぁ大体のことはわかりました。だけどやっぱり自分の中に何かが入りかけてるというのはどうもスッキリしないですね」
 俺がそう言うと、片岡さんは話し終わるのを待ちきれないように口を開いた。

「そこが恐ろしいところなんだよ。実に巧みで巧妙だね、紛らわしく侵入しようとしている。それが魅入られると言うことなんだよ。ある時ハッと気がついたら自分は身動きできない巨木の中に閉じこめられているんだよ。紗英はね、きっと寸前に気がついたんだと思う。勘のいい子だったから。それで、おきぬさんのように身体を自分で壊したんだと思う。……死んでしまったけどね」

 そこまで言われると納得するしかないし、言葉も出てこない。自分の中にもぞもぞと動く何かを感じる。コイツが俺の何かを歪めている正体かも知れないと思った。

「リュウ、そろそろ始めるかね、もういいだろう」
 婆さんはお茶を飲み干すと、立ち上がりかけた。
「祐介君、一つだけ確認したいんだが、君の気持ちが魔桜を断ち切ろうとしているかどうかなんだ。ここがしっかりしていないと、何をしても徒労に終わるだけだからね、大丈夫かい?」

 片岡さんの本気の顔を初めて見た。目の奥の光の強さはただ者ではない。微塵の嘘も見抜くような鋭さがあり、この光を見ながら嘘をつくことなど不可能だろうと思う。
俺は、「はい」と、それだけ言ったが、片岡さんの視線から逃れられずにそう言わされてしまったように感じる。

 この部屋の隣に小さな部屋があり、片岡さんと婆さん、それに美緒が一緒に入っていった。着替えをするという。

 俺だけこの部屋で待つように言われたが、だんだん腹立たしくなってきた。皆で寄ってたかって俺のことを大変な重病人扱いだ。何もしなければ死んでしまうか、身体を乗っ取られるかだと、俺はそれほどバカじゃない。死にもしないし、俺の身体を乗っ取られるなんて、人工衛星が飛ぶ時代にあり得ない。先ほどもぞもぞ動いていた奴が正しいかも知れない。俺はだまされないぞ、貧乏神主め!ボケババア死んじまえ!
 乱暴な言葉が次から次へと浮かんでくる。大声で怒鳴りたくなる。暴れたくなる。ちゃぶ台の上にある湯飲みを隣の部屋へ投げつけ、ちゃぶ台を木っ端微塵に壊したい。


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