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悲劇のブタが生まれた(9) [小説<恋なんて理不尽な夢>]

           悲劇のブタが生まれた(9)

「そうよ、時々夜中に目を覚まして起きてくることがあるでしょう、あの時は薫よ。康平は気がつかなかった? 一美は眠っていて薫が目覚めていたのよ」
「まさかぁ、普通に話してるんだよ、いつもの姉ちゃんだったよ」
「違うわ。一美が目覚めてから夜のことを訊くと何も覚えていないのよ。だけど夜中に目覚めたときに訊くと前の日の夜のことを覚えていたの。夜中に行動したことを完全に覚えていなければ夢遊病だけどそうじゃなかったわ。子どもの頃ちゃんと専門医にも診て貰ったから確かよ」
「それって、多重人格とかじゃないの?」
「それも違うわ。一美と薫は元々一卵性だから性格も思考もそっくりなのね、多重人格だと明らかに違ってるはずよ」
「いつから?」
「はっきり気がついたのは小学校に入学した頃だったわ。夜中に目覚めてね、リビングで編み物をしている私の隣にちょこんと座ったの。寝ぼけてるのかと思ってしばらく見ていたら習ったばかりのひらがなをノートに書き始めたわ。後でノートを見た時は心臓が止まるかと思った。かおるって大きな字で書いてあったの。次の日の夜にね、薫って名前を呼んだら嬉しそうに返事をしたわ。その時からお母さんと薫は話すようになったの。知ってるのはお母さんとお父さんだけよ」
「今の姉ちゃんは薫なの?」
「………お母さんにもわからない。でも二人とも生きようと頑張ってると思う」
 私が眠っている間に薫が………何も知らなかったわ、私が眠れば薫が目覚めるのね。今もいるの? 私も薫と話したい………薫………薫………。

「花子、起きて!」
 はなこ? 薫は? お母さんはいるの?
「今日は天気いいから布団干すのよ、あんたの寝床はあっちでしょ!」 
 絵里子だわ。また私の前で仁王立ちしてる………確か同じようなことが………思い出したわ、私は黒いブタ? そうよ、私は絵里子に連れられて散歩に行ったわ。どうしてこんなことになるのよ。
 私は病院で目を覚ましてお母さんの話を聞いたわ。薫のことも覚えてるし、目を開けて天井を見たのも覚えてる。
 それなのに今の私は絵里子のブタになってる。これって悪い夢?

<痛い! なによ!>
 絵里子が私の頭を叩いた。睨み返したが絵里子の手はもう一度振り下ろされそうだ。会社ではカワイコぶってるくせに家では動物虐待じゃない。でも取り敢えず逃げるしかない。身体を動かし始めたがもう遅かった。絵里子に頭をもう一発叩かれベッドから転がり落ちた。
運動音痴の絵里子を舐めすぎた。
<ブスえりこぉぉ!!>
 私は叫びながら絵里子の膝に体当たりをしてやった。当たり所が良くて絵里子の尻がストンと床に落ちて悲鳴が家に響いた。やっぱり私の勝ちだわ。

 

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