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悲劇のブタが生まれた(8) [小説<恋なんて理不尽な夢>]

                            悲劇のブタが生まれた(8)


「結合双生児だったの、シャム双生児のことよ。腰のところが繋がってたわ。妊娠五ヶ月の時にそのことがわかってね、とても悩んだし苦しんだわ。でも生まれて来る時には覚悟を決めていたの。どんな姿で生まれても大切に育てようとね。二人とも可愛くて大きな声で泣いたわ。名前は一美と薫って決めてた。でもね、生まれてみると色々問題があってこのままでは二人とも生きられないって。早く分離手術をすれば一人は助けられるから生かす一人を選ぶように言われたの。なんて酷いことを言う医者だと思ったわ」

「それで姉ちゃんを選んだ?」
「………お父さんと二人で一晩泣きながら抱いて考えたわ。いくら考えても決められなかった。窓から朝日が一美と薫の顔を照らしたわ。そしたら薫が笑ったように見えたの。選んだのは薫よ。それから手術までの間、ずっと一美の身体を撫でお乳を飲ませ歌を歌ってた。涙がぽろぽろこぼれたわ。一美はお腹が一杯になると私の歌を聴きながら気持ちよさそうに眠ってた。看護師さんが連れに来たときも一美は気持ちよさそうに眠ってたわ。私は看護師さんを断って自分で手術台まで連れて行ったの。母親として出来ることはもうそれしかなかった。二人を手術台の上に乗せたけど手を離すことが出来なかったわ。私が手を離せば手術が始まるのよ、わかる? お父さんが後ろから私の身体を抱きしめるようにして手術台から引き離したの。お父さんの手が震えていたのを覚えているわ。私は抱き抱えられるようにして廊下に出て泣いたわ。連れ出したお父さんが憎らしかった。しばらくしたら看護師さんが血相を変えて飛び出して来たの、薫が危ないって。中に入るとまだ手術前で二人の胸にセンサーが取り付けられていた。モニターの一つは元気そうな波形が見えたけど、もう一つは壊れてしまったように見えたわ。何の予兆もなく薫の心臓が突然動きを止めたって説明してくれた。分離手術は終わり傷跡には薫の皮膚を移植したわ。薫はね、自分で死ぬことを選んだように思えてならないの。生まれたばかりの赤ちゃんにそんなことが出来るはず無いと思うけど、でも母親の私にはわかったわ。薫は一美の身体の中で一緒に生きようと思ったのよ」
「姉ちゃんはそのこと知っているの?」
「話してないわ。知ってるのは私とお父さんだけよ。だから一美は絶対死んだりしないわ。だって薫も一緒なのよ。きっと薫が助けてくれる」

 私が結合双生児? 薫? 私の中で一緒に生きてるって? 訊きたいことは山ほどあるのにこれじゃ何一つ訊けないじゃない。 
「生きて分離出来てれば俺にもう一人姉ちゃんがいたのか………話してみたかったなぁ」
 何暢気なこと言ってるのよ。私は解剖されるかどうかの瀬戸際なのよ!

「話したことあるわ」
「え? なんで?」 
「結合双生児ってね、身体が一つになっても二人で共有出来るのよ。だから今でも薫は一美の中で生きてて、一美が眠ったりすると顔を出すことがあるの」
 お母さん何を言い出すの、私は一美で薫じゃないわ!
「眠ってるときに?」

 

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