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悲劇のブタが生まれた(7) [小説<恋なんて理不尽な夢>]

            悲劇のブタが生まれた(7)

呼んでも叫んでも誰も答えてくれないし、私はただ受け止めるだけなの? 何一つ伝えられないの? 指一本でもいいから動かしたい。渾身の力を振り絞って身体を動かそうとしたり、声を出そうとしたけどやっぱり身体は何の手応えもない。どこも動いていないのに疲れだけは感じて、重労働を終えたあとみたいな気分がする。誰もそんな私に気がついてくれなくて、時々顔を覗き込んだりする。だんだん天井の蛍光灯が不快に思えてきた。

「ねぇ、一美は本気で臓器提供するつもりだったのかしら。私はそんなこと一度も聞いた覚えないわ」
「だけど、ケースワーカーさんの見せてくれたカードの筆跡は間違いなく一美だったよ」
「私は嫌よ、一美は生きようとしているのよ。こんな時にあのケースワーカー非常識よ」

 臓器提供? そうよ、思い出したわ。絵里子が何枚かカードを持ってきてみんなに配ったことがあったわ。何か一つくらいいいことしようって言ってた。まさか自分が脳死状態になるなんて思いもしなかったから、その場の勢いで全部の臓器を提供するようにサインしたような気がする。だって目と心臓はよくて肝臓はイヤなんて理由は無かったわ。だけどなんでそんな話になるの? 私が臓器提供カードを持ってたから? 医者が脳死になるかも知れないって言ったから? 私は生きているし、聞こえるし見えるし考えることもできるわ………。
<イヤ! イヤ! 絶対イヤよ、私の身体をバラバラになんかするのイヤよ、人助けなんかしない! 生きたいの!> 

「目を閉じます」
 看護師の手が私の視野を遮ったかと思うと目の前が薄暗くなって何も見えなくなった。
この次はいつ目を開けてもらえるのだろう、もしかしてもう二度と………。考えるだけで恐ろしい。私がこの世から消えてしまうなんて想像出来ない。でも、もし私が眠っている間に脳死判定されて私が気がつかなかったらどうなるの? 脳波なんかあてにならないし信用出来ないわ。気がついたときには解剖台の上に寝かされていたらどうしよう。誰が助けてくれるの? 大学病院だったら若い研修医の視線に晒されながら、私の身体から臓器を切り取られる音を聞くことになるわ。

「一美、頑張るのよ、あなたはね、特別なのよ」
「そうだよ一美、お前には二人分の命が宿っているんだからね、だから頑張れ」
<何のこと? お母さん、特別ってどういうこと? お父さん、二人分の命ってわからないわ。そんな話し聞いたことないよ、教えて!>
「姉ちゃんが特別ってどういう意味?」
 そうよ康平、ちゃんと聞くのよ。

<なぜ黙ってるの、二人とも何か言ってよ!>
「私から話すわ。一美はね、双子だったの。でも普通の双子じゃなかったの」
「普通じゃないって………?」

 

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