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第1章 占い [小説<ろくでもないヤツ>]

              仮題   「 碌でもないヤツ 」

第1章  占い

 渋谷の繁華街を歩く俺の足元を枯葉が舞った。屋上の庭園か近くの公園から北風に煽られて飛んできたのだろう。どっちにしろ目に映るもので安心出来るのはこの小さな枯葉一枚だ。見上げれば高層ビルの隙間に薄っぺらい空が見えるが、あんなものは偽物に決まっている。俺は騙されたりしない。あの奥に広大な宇宙空間があるなんて信じてるヤツは一人もいないだろう。通りの左右は見るだけで目の中に異物が入り込んでしまったような違和感を感じる。

 だから枯葉の行方を追った。こいつだけが一番正直者で嘘をついたり騙したりしない。まるで意思でもあるかのようにすれ違う人の間をすり抜け、占い小路と呼ばれる狭い道に吸い込まれていった。俺の行く渋谷駅とは違う方向なのに、気がつけば俺も占い小路に足を踏み入れている。枯葉は俺の少し前で動きを止め、俺も慌てて足を止めた。枯葉を挟むように二本の足があり、その傍らに運命鑑定五百円也と書いた看板がある。占い師の前で立ち止まってしまった。その占い師は俺を迷える羊かカモとでも思ったのだろう、顎を上下に動かして椅子に座るよう促している。一瞬ためらったが、座るのが当然のように身体がフラフラと動いてしまった。 

「名前と年齢を」                                                    
 俺が座るとその占い師は俯いたまま陰気な声で言った。
「三浦海斗、二十一歳」
 問われるまま答えてしまったが、俺の口から出る声も陰気になった。返事をしたのに占い師は俯いたまま俺を見ようともしない。
「ある日のことだ」
 占い師が言った。まだ俯いている。
「ある日?」
 俺は物忘れをした老人のように問い返した。しかし頭は反射的に働き、ある日に相当するような事柄を探したが、何を言われているのか見当がつかない。
「近くもないがそう遠くもないある日だ。君は小さな荷物を持ってあるところへ行く」
「あるところ?」
「近くもないがそう遠くもない、あるところだ」
「荷物って?」
「そんな重いものじゃないから心配しなくていい。君は持っていくだけだ」
 いかにもいかがわしい雰囲気を漂わせながら占い師は言った。
「それが………何?」
 特別な意味を期待して問い返した。
「君の運命だ。以上、鑑定終わり」
 占い師は面倒そうに言うと、見料と書かれた四角いお盆のような器を目の前に差し出した。
「ふざけんなよ! 何のことだかわかんねぇよ。事業で成功するとか失敗するとか、結婚するとかしないとか、色々あんだろう」
 俺は目の前の痩せた老人に怒鳴った。
「そんなことなら三千円の占い師に訊けばいい、望み通りの運命を教えてくれる」
 老人は何事もなかったように筮竹を両手で揉み、少し離れたところにいる占い師を見た。
「五百円の客を馬鹿にする気か、運命とやらをちゃんと占えよ」 
 老人の顔を睨むと、痩せた顔を上げ俺の目を突き刺すように見た。

 

 


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