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占い(10) [小説<ろくでもないヤツ>]

                 占い(10) 

「勝手に開けるなよ」
 俺は婆ちゃんから箱を取り上げ開けようと思ったが、どこから開けていいのか分からない。どうやらからくり箱のようだ。開け方が巧妙な仕掛けになっていて、寄せ木の複雑な模様が余計わかりにくくしている。

 そういえばこんな模様をどこかで見たような気がする。記憶の糸を慎重に辿ると中学生の俺がぼんやり見える。昼間なのにカーテンを閉め切って部屋の中は薄暗い。あの日は学校にも行かず一日中部屋の中にいた。お袋が俺を残して一泊旅行に出かけた時だ。職場の旅行とか言ってたけど、俺には男と一緒だとわかってた。それまでお袋が俺を残して一晩出かけるなんて一度もなかったから余計記憶に残っている。あの時の土産がこんな模様のペンケースだった。俺はその奇妙な模様が気に入らなくて一度も使わなかった。机の引き出しに放り込んだままになっているはずだ。

 あの時にお袋がこんな奇妙な箱を押し入れの奥にしまい込んでいたなんて知らなかった。しかも婆ちゃんにこの箱を俺に渡すように頼んでいたなんてどういうことだろう。よほど大切なモノでもしまってあるのだろうか。幾つか動きそうなところを見つけたけど引っかかって動かない。
「開けられないよ、説明書とか付いてないの?」
 婆ちゃんは箱の入っていたビニル袋を覗きこむように見ている。

「あ、なんかあるね」
 そう言うと婆ちゃんは黄色くなった紙切れを取り出して読み始めた。
「箱の届け先、新宿区○○町、読朝新聞出張所、植村昌人様。なんやこれ、知らん人やね。海斗はこの人わかるかぁ?」
 婆ちゃんはそう言って紙切れを俺に渡した。確かにお袋の字で書いてある。あの頃一緒にディズニーランドに連れて行かれた男の名前はこんなじゃなかった。確か下の名前が金男だった。金の男ってあまりにも露骨すぎる名前を笑ったことを覚えている。

「これ、どういう意味?」
 婆ちゃんのポカンとした顔に向かって言った。
「うちにも何のことかわからへん。加寿子は、私になんかあったら押し入れの箱を海斗に渡して欲しいとだけ言うてたなぁ。あの時は死ぬような手術でもなかったし、返事だけしてそれ以上は何も聞かんかった。そやけど届け先って書いてあるしなぁ。海斗に届けて欲しいのかなぁ」
 婆ちゃんはそう言って首をひねった。

「この男がお袋を殺した犯人だったら?」
 お袋と親しい男が犯人ならこの男は怪しい。もう一度名前と住所を見た。
「そんな危ないとこ行ったらあかん、やめとき、警察に届けたらええ」
 婆ちゃんはそう言うと電話に手を伸ばした。
「待って、俺に考えがある。この荷物届けるよ、警察はそれからでも遅くない。大丈夫だよ、どんな男か見たいんだ」

 婆ちゃんは不安そうな表情で俺を見ながら電話から手を離した。
「加寿子は何のつもりでこんなことしたのやろなぁ。あの時にもっと話を聞いとけばよかったんや」
 婆ちゃんはそう言って祭壇を見た。お袋の写真が俺と婆ちゃんを見て笑っている。

 

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