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占い(9) [小説<ろくでもないヤツ>]

           占い(9) 

「これからどうするんや」
 婆ちゃんは涙を拭き、けじめをつけるように言った。
「まだわかんない。でも俺一人じゃここの家賃は払えないからどこかに引っ越さないと暮らせないと思う」
「そんなら大阪へおいで、婆ちゃんと暮らしたらええわ。贅沢はできんけど、食べるくらいなら何とかなるしな。加寿子も安心するやろ」
 婆ちゃんはそう言いながら押し入れの荷物を片付け始めた。

「犯人が捕まらないと大阪行く気になれないよ。お袋は婆ちゃんに何か言ってなかった?」
 婆ちゃんは荷物を片づける手を休めて考え始めた。
「加寿子は男のことは何にも言わんかったなぁ。うちの反対押し切って東京へ行ったからね、小さな意地があったんや。昔やったらきっと神さんが夢の中でも教えてくれたかも知れんけど、今は何にもわからんのや。そやから加寿子を死なせてしもうた。うちより海斗の方が聞けるかも知れんなぁ」
 婆ちゃんは丸めた背中を膨らませて大きく息を吐いた。

「俺は神さんの言葉なんか聞いたこともないし夢も見たことがないよ。やり方だってわかんない」
 婆ちゃんの丸くなった背中を見ながら言った。
「やり方は人それぞれみんな違うんや。そやから人に教えられへん。そやけど耳を澄ましとったら急に聞こえることがあるんや。ほんまに急に聞こえるんや。始めて聞こえたのはカンダーリで頭が変になって夜中に裸足で歩き回ってた頃や。名前呼ばれたんが最初やった。医者には幻聴とか色々言われたけどな、あれは絶対神さんの声やった。それから神棚祀って毎日拝んでたら近所の人が悩み事を相談しに来るようになったんや。そのまま沖縄で暮しとったら良かったのに、婆ちゃんアホやから大阪まで来てしもうた。挙げ句の果てがこのざまや。」
 そう言うとまた押し入れの片付けを始めた。見ていると片付けと言うより何かを探しているように見える。

「これかなぁ、加寿子の言うてた箱は」
 婆ちゃんはそう言ってビニル袋に入った小さな箱を押し入れの奥から出してきた。中にりんご二つ位は入りそうな大きさの箱だ。
「何なのその箱は、俺は一度も見たことがないよ」
 婆ちゃんはその綺麗な模様のついた木の箱を色々な角度から眺めている。
「思い出したことがあるんや、これに間違いない、加寿子の言うてた通りの箱や」
 婆ちゃんは箱を下の方から見上げながら言った。
「だから何なのその箱は」
 少し大きな声で言った。

「ああ、これはなぁ………海斗が中学の頃や、お母さん子宮ガンの手術したの覚えてるか? そん時に言われたこと思い出したんや。もし何かあったら押し入れの奥に箱があるから海斗に渡してくれ言うてたんや。寄せ木造りの箱でなぁ、見たらすぐ分かる言うてた」
 婆ちゃんはそう言いながら箱を開けようとしている。

 

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