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占い(8) [小説<ろくでもないヤツ>]

 途中でどんな選択をしても大筋は決まっていて変わらない。変えられるのは入り口と出口だけで、大抵は出口の選択を間違えるとも言ってた。お袋は出口を間違えたのだろうか。だとしたら他にどんな出口があったのだろう。

 質素な祭壇を見ると、お袋の黒縁の写真が笑っている。若い頃の写真でとても幸せそうに見える。ラブホテルで首を絞め殺される結末が待っていようとは思いもしないだろう。誰だってそうだ。自分がどんな最後を迎えるかなんて予想出来ない。だけどそうなる理由はあるはずだ。何の理由も原因もなく物事は起こらない。今の俺の生活だってそうだ。きっと過去にその理由はあるはずだし、原因を作っていたのだと思う。だから今の惨めな暮らしがあるんだろう。

 もしかしたら婆ちゃんの言うことは当たっているかも知れない。世の中で一番の苦しみは子どもを亡くすことだと聞いたことがある。婆ちゃんは昔の過ちが原因で娘を亡くす苦しみを受けているのかも知れない。
 でもそうだとしたらお袋が可哀想すぎる。婆ちゃんの犠牲になる為に生きてきたみたいだ。そんな馬鹿なことはない。だけど世の中は説明出来ない理不尽なことだらけだ。人を傷つけることなく善良に暮らしてきた人が無残な死を迎えることがあるし、その反対に悪いことばかりしながらのうのうと生きている人もいる。どう考えてもおかしい。

「婆ちゃんは若い頃ユタだったんだろう、ユタって神様の言葉を聞いたり、未来を予知したり出来るのになんでお袋を助けられなかったんだよ」
 骨壺を抱いている婆ちゃんに言うと、婆ちゃんは涙を流しながら何度も頷いた。
「海斗の言う通りや、うちがちゃんとしとったら加寿子を死なせずに済んだんや。加寿子は何も悪うない。うちが全部悪いんや」
 婆ちゃんはそう言ってまた泣いた。

「誰が悪いか訊いてんじゃないよ。どうして助けられなかったか訊いてんだよ」
 悔しい気持ちを婆ちゃんにぶつけるように言った。婆ちゃんはしばらく黙っていたが、骨壺を猫でも撫でるようにしながら話し始めた。

「加寿子はうちと同じやった。大切なものを捨てて男を選らんでしもうたんや。加寿子にもユタの血が流れているのはよう分かったし、沖縄にいたらええユタになったと思う。そやけど神さんより男の言葉を信じたんや。うちと同じや。そやから間違いや言うても加寿子は聞かんかった。うちもそうや、ひい婆ちゃんから間違いや言われても沖縄飛び出してしもうたんや。どないもできんかった。一度神さん裏切ると二度と神さんの声を聞くことはできんようになったんや。親の因果が子に報いとはこのことや。神さんはほんまに厳しいもんや。大目に見てくれたり、利子がついたりせぇへん。どんなちっちゃなことでも出した分だけ、回り回ってきっちり還ってくるんや。長いこと何ともなしに暮らしとっても、いつかはツケが回ってくる。逃げられへんのやなぁ」
 婆ちゃんは骨壺を撫でている。愛おしそうに撫でている。婆ちゃんの罪というのを聞きたいけど、これ以上聞いたら婆ちゃんがどうにかなってしまいそうで聞けない。

「俺にもユタの血は流れてるの?」
 お袋とユタの話は殆どしたことがないし、訊いてもあまり答えてくれなかった。
「海斗にも立派なユタの血が流れとる。加寿子が言うとった。この子は勘のええ子やて。そやからきっと苦労するに違いないって。カンダーリ言うてな、ユタになる前に頭が変になることがあるんや。それを乗り越えて神さん信じたらユタになれる。うちも加寿子も神さん捨ててしもたからこんな目に遭うたんや。ほんまにアホや」
 婆ちゃんはそう言うと、お袋を丁寧に祭壇に乗せた。」

 

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