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占い(7) [小説<ろくでもないヤツ>]

                占い(7) 

 線香の香りが部屋の中に充満している。お袋の葬儀が終わり、部屋の中に俺と婆ちゃんと骨壺に入ったお袋がいる。壺を両手で揺すると乾いた音が部屋に響いた。俺はまるで夢遊病者のように言われるまま動き、病院に行ってからのことをよく覚えていない。だけど警察で見せられた防犯ビデオの映像だけは鮮明に覚えている。

 あの男がお袋の首を絞め、ラブホテルに置き去りにしたのだ。最初の映像は、お袋と一緒にホテルに入るところで、次の映像は男が一人でホテルから出て行くところだった。慌てる風でも無く、落ち着いた様子でカメラのアングルから歩いて消えた。白黒で画像も小さく顔の判別は難しいけど、あの男がお袋を殺したことは間違いない。中肉中背でスーツ姿の男に際立った特徴は見当たらない。普通のサラリーマンで普通の家庭を持つ男に見える。警察からお袋の交友関係をしつこつ何度も聞かれたけど、俺は何一つ知らなかった。俺はお袋の何を知っていたのだろう。

「天罰や……加寿子は天罰食ろうて死んだんや」
 婆ちゃんが俯きながら小さな声で言った。手の上に涙が落ちている
「何でお袋が天罰なんだよ! 男とホテル行ってどこが悪いんだよ」
 俺は俯いたままの婆ちゃんに言った。
「人は悪いことせんでも天罰食らうことがあってなぁ、この婆ちゃんの罪を加寿子が受けたんや、きっとそうや。全部婆ちゃんのせいや。加寿子に罪はなんもない」
「罪ってなんだよ、婆ちゃんが何しようとそんなの関係ないだろう」
 婆ちゃんは肩を震わせて泣いている。

「若い頃の罪が今頃になって……婆ちゃんのせいで母親と子どもが二人死んでな、その罰で加寿子が犠牲になったんや。婆ちゃんが誰かに殺されれたらよかったんや」
 婆ちゃんは泣きながら骨壺を抱いて、ごめんな、ごめんなと何度も繰り返した。
「お袋も婆ちゃんも悪くねぇよ、悪いのはあの男だ。俺が捕まえて殺してやる」
 平然と何事も無かったかのようにホテルを出るアイツが憎い。婆ちゃんは骨壺を抱きながら泣いて謝り続けている。六十を少し過ぎたくらいだけど、泣いている姿は十歳位老けて見える。若い頃の罪を抱えて生きてきたのだろうか。

 婆ちゃんの人生もお袋の人生も似ていると思う。婆ちゃんは沖縄生まれで、若い頃は評判のユタだったとお袋から聞いた。婆ちゃんの母親もユタで、代々ユタの家系らしい。お袋も婆ちゃんも、その前の婆ちゃんも皆若い頃に夫を亡くしたり、いなくなったりしている。婆ちゃんの母親は死ぬまで沖縄でユタをしていたらしいけど、婆ちゃんは沖縄とユタを捨てて大阪に移り住んだ。お袋が十歳位の時だと聞いた。そしてお袋は十八で大阪を捨てて東京にやって来た。婆ちゃんもお袋も男と引き替えに何かを捨てて生きてきた。そして二人とも男に捨てられ今日まで生きてきた。

 ユタは人の悩みや苦しみを解決したり癒したりするのが生業なのに、自分のこととなると何も見えなくなるのだろうか。そうでなかったらこんな人生を生きることは無かったはずだ。もしかしたらお袋にだってユタの能力が備わっていたかも知れない。だけどその人生は辛いことばかりの連続だったと思う。どうしようもない力で、ぐいぐい運命をねじ曲げられたように見える。どうあがいても結局何も変わらなかったのだろう。占い師の言葉を思い出した。

 

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