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占い(6) [小説<ろくでもないヤツ>]

              占い(6) 

「緊急搬送って、お袋がどうしたんですか?」
 慌てて隣の部屋を見たがお袋はいない。
「三浦加寿子さんは事件に巻き込まれた可能性があります」
 警察官に腹が立ってきた。
「お袋に替わってくれ!」
 俺は大きな声で言った。
「今は搬送中です。至急来て下さい」
 冷静な警察官は、搬送中との一点張りで話が見えない。タチの悪い悪戯かと思ったけど、アパートまでパトカーを手配してあると言う。遠くの方からサイレンが聞こえてきた。
 
 指示されるままパトカーに乗せられたが、本人確認が済むまでは詳しい話は教えられないらしい。本人確認とはどういうことだ、嫌な予感がする。それなのにお袋や俺の生活のことは根掘り葉掘り訊かれた。病院に着くと玄関に背広姿の若い男が待っていて、俺を連れてきた警官と話をしている。俺は何か巧妙な罠にまんまとはめられてしまったような気がする。真面目そうなポリ公に騙されて犯罪者に仕立てられるのかも知れない。お袋は男とどこかで楽しくやっているはずだ。こんなところになんかいない。

「行きましょう」
 背広男が俺の腕を掴んだ。
「いかねぇよ、一体何だよ、お袋がどうしたんだよ!」
 俺は掴まれた腕を振り払って言った。 
「……わかりました、説明します。先ほど三浦加寿子さんと思われる女性が救急搬送されましたが、すでに死亡されていました。事件性の疑いがあるのでこの病院で死因を検査します。本人であることの確認と、遺族の方の承諾が必要なのです」

 俺を連れてきた警官は丁寧に話すと俺の腕を掴んで歩き出した。遺族? 足がフラフラする。お袋が死んだ? 本人確認? 何かの間違いだ。俺はその可哀想な女の人を見て別人だって確認すればそれで済む。目の前に誰もいない長い廊下が見える。こんなところにお袋はいない。
 どこをどう歩いてきたのか、目の前に白いドアがある。警官がゆっくり開けると部屋の中央にベッド位の台があり、その上に白い布をかけられた人が横たわっている。まるで刑事ドラマで見たような光景で現実感がしない。警官に押されてゆっくり前に進んだ。白い布は顔の部分まですっぽり覆われている。

「確認して下さい、三浦加寿子さんですか?」
 警官は白い布の端を掴んでゆっくり持ち上げた。お袋と同じ濃い茶色の髪が見える。額も眉毛も鼻も口も、全部お袋と同じだ。でも違う。お袋はこんなところにいる筈がない。何度も何度も顔を見た。今日の朝、この口が俺に行ってらっしゃいと言った。振り返ったとき鏡の中で目が合った。酢豚の味が口の中に広がった。
「かあさん! かあさん! なにしてんだよー!」
 目の前が霞み、誰かに肩を抱き抱えられた。

 

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