SSブログ

占い(5) [小説<ろくでもないヤツ>]

                 占い(5) 

 ガードマンをしている斉藤が言っていた。
「俺たちは負け組で落ちこぼれだから、いつまでたってもいくら頑張っても同じさ。要するに能なし野郎なんだ」って。斉藤は自分でアパートを借りて彼女と一緒に暮らしているけど、生活するのがやっとだし、正社員で雇ってくれるような会社はどこにもない。あったとしても俺たちを雇うような会社はブラックに間違いないだろう。斉藤の言うことがリアルに分かる。

 頑張れるヤツは頑張れる才能があるに違いない。俺はすぐに挫けてしまうし、何をやっても長続きしない。気持ちはあってもいつの間にかダメになっている。怠けようと思っているわけじゃない。頑張れないだけだ。俺たちのことを怠け者って言うのは、頑張れる才能があるヤツの言葉だ。俺は精一杯頑張っているつもりだけど結果はいつも怠け者になってしまう。だから斉藤の言うように俺は能なし野郎だ。まともに出来ることなんて一つもないし、今の仕事だってあと一ヶ月もたないだろう。

 世の中は何かの才能を持ったヤツだけが生き延びて、俺みたいな何の能力もないヤツは長くは生きられないように出来ているに違いない。お袋は、ホームレスになるわよって言うけど、ホームレスだって才能が必要だ。立派に一人で生きている。俺はお袋に寄生しているだけで、一人じゃ生きてゆけそうもない。

 大体生きていくことに何の意味があるんだろう。斉藤みたいに結婚していれば話は別だけど、俺一人生きてようが死んでようがどうでもいいことだ。だからこのまま歳をとって、例えば三十歳の自分なんて考えられないし、その年まで生きられる筈がない。運命は上手い具合に出来ていて、適当なところで死んでしまうのだろう。そう考える方がよっぽど気楽でいい。大してやりたいことも出来ることもないし、この先いいことがありそうな気配もない。人の嫌がるような仕事しか回ってこないし、ろくなことはないだろう。自殺するほどの勇気はないから、きっと突然心臓が止まったり何かの事故とか災難で命が無くなるような気がする。だけど下水道で死ぬのだけは勘弁して欲しい。事故でも心臓でもいいからせめて地上で死ねればいい。

 携帯電話の呼び出しがうるさい。時計を見ると夜中の二時だ。遅くに電話してくるヤツはいるけど、さすがにこの時間に電話するヤツはいない。俺はゲームのコントローラーを持ったまま座椅子で眠り込み、座卓の上で振動する携帯に目を覚まされた。相手はお袋に違いない。時々隣の部屋から布団に入りながら電話してくることがある。音がうるさいだの、早く寝ろだの、どうでもいいようなことだ。またかと思い携帯にでると、聞き慣れない男の声がする。

「夜分に申し訳ありません。三浦海斗さんですか?」    
 やけに丁寧で落ち着いた話し方だ。気に入らない。
「そうだけど……」
「三浦加寿子さんのご家族の方ですか?」
「三浦加寿子は母親だけど、何ですか?」
「渋谷警察署、捜査一課の谷田と申します。急を要しますので三浦加寿子さんの携帯で番号を確認しました。お母さんは渋谷の済世会病院に緊急搬送中ですので至急来ていただけますか?」
 警察官の落ち着いた話し方は還って不安を煽られる。

 

創作小説ランキングサイトに登録しました。よろしければ下記リンクをクリックお願いします。http://www.webstation.jp/syousetu/rank.cgi?mode=r_link&id=396


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0