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占い(4) [小説<ろくでもないヤツ>]

                  占い(4) 

  中学生になるとそれが誤魔化しだと分かったけど、お袋に訊くのは抵抗があった。だけど死んだとは言わなかったからどこかで生きていると思っていた。あの男なのか分からないけど今でもどこかで生きていると思う。

 父のいない謎が解けたのは原付免許を取るときに自分の住民票を見たからで、父の欄は空欄で続柄は男と記載されていた。父の欄が空欄なのは何とも思わなかったけど、続柄が男となっているのを印刷ミスだと思った。一緒に行った友だちの住民票には長男と記載されていたからだ。

 窓口の人に苦情を言うと、その担当者は認知されない子どもの記載方法だと説明してくれた。その時はショックを受けるとかそういうことはなくて、なるほどそういう理由だったのかと納得した。今から思うとやはり大きなショックを受けていたのだと思う。夜間高校を中退したのはそれから三ヶ月後だった。得体の知れない憎悪が膨らみ、俺はその矛先を自分に向けるしか方法を知らなかった。

 その頃から俺は何も変わっていない。まるで成長がストップしたような気がする。経験したアルバイトの数とゲームソフトの本数だけが増えた。恨めしく見上げた部屋は真っ暗で、お袋は予想通り深夜まで帰ってこないだろう。以前は仕事だの、友だちと会う為だの色々理由を言っていたが、最近は何も言わず俺も訊かない。

<もう大人なんだから分かるでしょう>と言われているようだ。お袋は俺を十代で産んだからまだ若く、おまけに童顔で若作りだから二十代で通るかも知れない。先輩に姉を紹介しろと頼まれたこともあった。お袋だと言ってもなかなか信用してくれず、最後にはお袋でもいいから紹介しろと睨まれた。俺には気持ち悪くしか見えないけど、世間のスケベ男にはいい女に見えるのかも知れない。

 部屋に入るとまず冷蔵庫を開ける。水曜日はいつもそうだ。あんなお袋だけど俺の飯だけは手抜きしたことがない。大した料理じゃないけど、冷凍じゃないことはすぐ分かる。冷凍食品をチンしてラップをかけておけばいいだろうと思うけど、今までそんなことは一度もなかったと思う。子どもの頃からお袋が断固として譲らないところだ。まるで何かの罪滅ぼしをしているようだと思うこともあるけど、この料理が親父のいないことや何かの痛みを和らげてくれた。

 冷蔵庫の中には思った通り俺の好物の一つ、パイナップル入りの酢豚と杏仁豆腐があった。料理のメニューでもお袋の気持ちが手に取るように分かる。だから俺は水曜日のことやあの男について何も言わないし訊かない。それに最近ようやくお袋の人生と俺の人生を別に考えることができるようになったからだ。そう思うとお袋が自分の幸せを追いかけているのは当然だし、喜んでいいことなんだろう。一応頭の中ではそう思えるけど、心の中では裏腹なことを考えている。どっちが本当なんだろう。

 酢豚を食べ終えると、テレビは相変わらずうるさい番組ばかりでやりたいことも思い浮かばない。誰か友だちから連絡でも来ないかと思うが、今日は誰からも連絡がない。大抵は暇なヤツが俺が帰った頃を見計らって連絡をしてくる。何か用があるわけでもなく、ただ俺の部屋に来て勝手にゲームをしたり漫画をよんだり、ギターの弾けるヤツは一緒に弾いたりする。要は俺の部屋が溜まり場と言うことだ。そんな毎日が高校を中退してからずっと続いている。

 

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