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第1章03 [宇宙人になっちまった]

 結局のところ、敬一が高校でのカミングアウトの相談相手として選んだのはやはり陽介だった。というよりも、話せる相手がいなかったというのが正直なところだ。
「そうだなぁ」
 陽介は感慨深そうに敬一の脳天を背伸びしてまじまじと眺めた。
「もう限界だよ、このまま大きくなったら十年後の同窓会はコーンヘッドだよ。そのときバレるより今の方がまだいいかも知れないなぁ」 
 敬一は頭のコブをなで回しながら言った。見た目は嫌いだが手に伝わる感触は例えようがないほど気持ちいいのだ。そのことを知っているのは陽介だけなので、時々陽介にも触らせることがある。見た目は硬そうだが実はほどよく柔らかくて触るだけでリラックスできる。だから陽介と二人の時は肩を組む代わりにコブに手を乗せてくることがある。
「よし、わかった、こうしよう」
 陽介が目を輝かせながら言った。こういうときは失敗することが多く要注意だ。陽介が調子に乗ったときはろくなことがない。
「コブをパワースポットにすればいいよ、今だって触ってるだけで気持ちいいし、なんだか癒やされる気がするよ。そうだ、清正の井戸にすれば大人気になること間違いなし」 陽介の鼻がヒクヒク動いている。絶好調の証だ。
「人のことだと思って適当なこと言うなよ、こんな醜いコブが人気になるはずないだろう」 敬一は陽介を睨みながら言った。
「大丈夫、簡単さ。ネットを利用すれば一夜で敬一は有名人だよ」
 陽介の瞳が一段と輝きを増し、潤み始めている。自分の言葉に酔い始めている兆候だ。敬一は、こうなるとなかなか止まらない陽介の性向を知っている。もうマネージャー気取りだ。「ちょっと横を向いてくれ」
 陽介はそう言いながらスマホを敬一に向けた。
「いい加減にしろよ」
 敬一は怠そうに横を向いたがまんざらでもない。陽介はアングルを変えながら動画と静止画を数枚撮り、
「よし、取り敢えずこれでいいだろう」
 と独り納得するとスマホをいじりながら校舎内へ消えていった。何かに熱中すると周りが目に入らなくなるのは陽介の癖だが、その分やることが早くて的確だ。下校するまでにはパワースポット山谷敬一が出来上がるだろう。敬一は中学時代の騒ぎを思い出し少し不安になった。

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