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第1章10 [宇宙人になっちまった]

 そうやって最初にやって来たのは、他校の女子高生だった。応対したのが母親だったこともあり、どういうわけかリビングで対面することになってしまった。自分の性格の悩みや友達関係、おまけに両親の夫婦関係の話まで聞かされた。敬一は退屈で仕方なかったが、関西弁の母親は話術に長けていて、瞬く間に女の子は元気になり大笑いするほどに回復したのだ。帰り際に敬一のコブに触らせて欲しいと頼まれ、これで終わりならと触らせたのが良くなかった。翌日、陽介が目を輝かせながら話した。その女の子が昨日の訪問のことをネットにアップし、コブに触ったら悩みがすべて解決したと、リビングで二人並んで撮った写真付きで報告していたと言うのだ。撮ったのはもちろん母親で、悩みを解決したのは百パーセント母親の力に間違いない。敬一はそこに座っていただけだ。
「敬一、やったな、これで女子が押し寄せるぞ」
 と陽介はまるで自分の手柄のように喜んだが、あれから一週間経つとさすがの陽介もうんざりした表情を見せるようになった。
 近寄ってくる女子高生は百パーセント敬一目当てで、さすがの陽介も嫌気が差してきたのだ。訪問客は毎日のようにあるが、ほとんど居留守を決め込んでいる。そのせいで山谷家の周辺は深夜まで怪しげな人が佇むようになった。
 朝までいる人はいないがそれでも用心深く出かけ、バス停も家から少し離れたところから乗るようにしている。途中で陽介が乗ってくるが、それでやっと落ち着くことが出来るのだ。
「よう、今日も疲れた顔してるね、ツノの調子はどう?」
 陽介がいつものように声をかけてくる。敬一はコブのことをツノと言われることにも慣れてきた。
「今日はいつもより暖かいね、まぁまぁかな」
 敬一がそう言うと、どれどれと言いながら陽介が頭に手を乗せてくる。いつものことで挨拶代わりのようになっている。
「確かにちょっと暖かいね、なんで日によって違うのかなぁ。何か意味がありそうな気がするよ」
 陽介は真面目な顔をして言った。コブのことを癒やし効果があるとか未来が見通せるツノだとか、ネット上には興味本位のようにアップしているが、二人の時には結構真面目に考えてくれている。癒やし効果も未来のことも丸々作り話でもないのだ。実際癒やし効果については、本当にしばらく触れているだけで体調が回復したこともあるし、友人なら誰しも経験して知っていることだ。見通す力も、それがコブの力なのかどうかはわからないにしても、時々陽介を驚かすこととがある。先日も遅刻しそうになったとき、先生の休みを当てたことがあった。だからといってテストの成績がいいことはなく、陽介といい勝負である。もちろん宝くじを当てることも出来ない。日常生活のつまらない事柄についてはよく当たるが、大して役に立たないことばかりなのだ。
「最近病院行った?」
 陽介が訊いた。
「先週行ったかな、まだ成長続けてるらしい。頭蓋骨腫瘍じゃない可能性が高いって言われた。最近学会で似たような症例が報告されたらしくて、詳しくわかったら病院を紹介してくれるって言ってた。患者の会も出来たらしい」

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