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第5章05 [宇宙人になっちまった]

 夢実が気味悪そうに言い、二人は息を詰めるようにして監視している。綾音が動けば動く方向に黒い影が揺らめきながら付いて動く。灯りの影とは明らかに違う。何度か手を広げ何かを唱え続けている。綾音の口から発せられる言葉に熱がこもり次第に大きくなってきた。黒い影はもはや光の影のようではなく、黒くうごめく生き物のように見える。敬一にも陽介にもその様子ははっきり見えてきた。三人とも言葉を失ったように見つめている。
 階段から足音が響いてくると、そばにいた男が綾音に知らせた。綾音はゆっくりと広げた手を下ろし、祭壇に向かってひざまずいた。
 正面のドアが開き、数人の男が一列に並んで入ってくる。真ん中に綾音と同じ黒いマントを着た男がいる。ろうそくの明かりだけではっきりしないがどこかで見たような顔だ。男たちは祭壇に向かって半円形に並んで止まると、綾音と同じように片膝をついてひざまずいた。
 綾音はひざまずいたまま先ほどまで唱えていた言葉を繰り返し唱え始めると、男たちも同じように声を合わせて唱え始めた。敬一たちの聞いたことのない言葉で、日本語でないことは確かだが、かといって、聞いたことのある外国語でもない。国籍のわからない言葉だ。強いて言えば中東の砂漠の匂いがする。
 唱える言葉が波打つように高まると綾音は立ち上がり、祭壇から前に進んで半円形に並んだ男の輪の中に入った。男たちは唱えながら綾音を見上げている。
 敬一たちは息を呑んでその光景を見ている。何が起きようとしているのか想像もできない。綾音のそばにいる黒い塊が激しく動き始めた。唱える言葉に共鳴しているようだ。夢実の足が小さく震えているのが伝わってくる。
 男二人が綾音の後ろに立った。綾音は輪の中で、ガウンを着た男と向き合うように立っている。両手を水平に開くと後ろの男がガウンの紐を解き、ゆっくりガウンを後ろに引いた。ガウンの下から露わになった素肌がろうそくの灯りに照らされ、柔らかそうな肌の上を滑るように落ちた。胸の膨らみを隠す一片の布きれすらなく、綾音は揺らめく明かりに晒されている。
 男は綾音の裸身をゆっくり眺めながら、自分のガウンの紐を解いた。バサリと音を立て絨毯の上に落ちると、獲物を狙う蛇のように勃起した下半身が露わになった。
 黒い影が触手を伸ばし、綾音と男の間でうごめいている。
「キルケ様、オルギアを始めてよろしいでしょうか?」
 綾音の後ろの男が冷静に訊いた。綾音がゆっくり首を縦に動かすと、祭壇に置かれたグラスが二人の前に差し出された。赤い液体が溢れるほどに注がれている。
 綾音は赤い液体に舌先を絡ませるように舐めると、唇の間を這わせるように喉の奥に通した。まだグラスに半分ほど残っているが、その半分は男の肩から胸にかけて弄ぶようにかけて流した。流れ落ちた液体は残らず絨毯に吸い込まれ、胸から下半身にかけて血塗られたようになった。男も同じようにグラスを口に運び、残った半分は綾音の肩から胸にかけて流した。

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