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第6章14 [宇宙人になっちまった]

 絵里子の大きな声が部屋に響いた。大きな文字で緊急放送の文字が画面いっぱいに見え、同時に耳障りな音も鳴っている。音の合間に、これは訓練ではありませんとテロップが流れ、音声も聞こえる。全員の目と耳がテレビに釘付けにされた。文字が消えると首相官邸の映像に切り替わり、執務机に座る竹内総理が映された。通常の会見室ではない。画面の端に芝浦官房長官とその後ろに綾音が見える。
「国民の皆様にお知らせします」
 竹内総理が原稿を持たず、カメラを正面に見ながら話し始めた。生気がなく目がうつろに見えるが、服薬した表情とは違う。人間性は保っているようだが、ぎごちない。
「日本国は、ただいまをもちまして日本国憲法を破棄いたします。依って国民の皆様の、全ての権利と義務が消滅いたしました。本日只今、日本と言う名前の国家の消滅を宣言します」
 話し終えると竹内総理は深々と頭を下げた。乗っ取られてはいなかったが、これでは乗っ取られたも同然だ。
「いい加減にしろ、こんなこと有り得ない!」
 ドクターが声を荒げて言ったとき、画面に綾音が大きく映った。
「人間の皆様に楽しいお知らせです」
 綾音が総理の椅子に座って話している。
「全ての自由が人間の皆様の手に入りました。窃盗、殺人を自由に行うことができます。世の中に犯罪という言葉はありません。あるのは自由のみです」
 綾音はここまで話すと、両足を執務机の上に投げ出した。スリットの間から下着が見えそうだ。
「そうそう、忘れていたわ、男性に朗報ね、強姦も自由です。どう、素晴らしいでしょ。あなたたちは今まで我慢させられていたのよ。もう私がいるから我慢なんかしなくていいの。憎い人がいたら、今すぐ出かけて殺すのよ。憎まれていると思う人は気を付けてね。殺される前に殺してしまえば安心ね。
 私が誰かって? アイドルの綾音? 教えてあげるわ。よく聞くのよクソ人間の皆様。私はお前たちのご主人様。悪魔キルケよ。よく覚えておくのよ。私に逆らえば死ぬだけよ。私のお薬を飲んだ人間は私の配下の者。いつだって悪魔にできるわ。私が命令すればいつだって殺人鬼になるの。隣の人が私の配下だったらね、早めに殺しておくことを勧めるわ。その方が安全ね。私の配下の者は今日一日で五百万人ってところかしら。これだけいれば十分よ。一週間後にまた会いましょう。その時に残った人間で私の国を創るわ。悪魔の国よ。必要なのは服従する人間だけ。それではまたね、グッドラック」
 官邸からの生放送が終わり、局の屋上カメラに切り替わった。見慣れた夜景で、まだインフラは無事のようだ。放送局内部は混乱しているのだろう。おそらく上層部にキルケの下僕がいるに違いない。

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