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第6章15 [宇宙人になっちまった]

「これはクーデターだ」
 ドクターが吐き捨てるように言った。
「クーデターって?」
 絵里子が眉をひそめて訊いた。
「この日本じゃ有り得ないことだけどね。武力とかの力で政権を奪うことだよ。会社で言えば、一部の社員で社長を脅して辞めさせて、その一部の社員の思い通りに会社を動かすことだね。全社員の思い通りならいいけどね、一部の社員というところが問題なんだ。わかったかな」
「キルケが総理大臣になって自分の好きなようにするってことね」
「そう。キルケが好きなようにすると、死人の山が幾つもできる。殺しをするための国が出来上がる。人間は殺しの玩具だね。キルケの理想だ」
 ドクターは絵里子のように眉をひそめた。
「自衛隊員が発砲しています!」
 浜辺が指さしながら叫んだ。敬一はその声で指さす方を見ると、通りを走り抜けようとする自動車にライフルを発射している隊員が見えた。先ほどまで銃口を怠そうに引きずりながらフラフラしていた隊員に間違いない。悪魔が乗っ取り始めたのだろうか、もうフラフラしている人は見当たらない。自動車は銃弾を浴びながらもまっすぐな道を走り抜けた。どこかへ逃げ出したのだろう。だけどどこへ逃げようと、悪魔に乗っ取られた人間が待ち構えている。どこへ行っても修羅場になる。キルケが命令したのだろう。五百万人の殺人鬼が動き始めたのだ。
 ネット上に酷い写真が溢れだした。街中で残忍な方法で殺された人や、車に踏み潰されたような遺骸など、直視できないものばかりだ。数日程度ならなんとか家の中に隠れていることができるかもしれないが、それも限界がある。今夜だけでも相当数の犠牲者が出そうだ。
「これからどうしますか? このままじゃ酷すぎる」
 浜辺が訊いた。
「キルケを葬るしか方法はないだろう。五百万の悪魔はキルケ次第だ。だけど今は近くにも寄れないだろう。官邸の周囲は自衛隊員で溢れているからな。まずは、地上で安全なところと仲間を探そう。作戦はそれからだ」
 ドクターはそう言うと、皆に家族と連絡を取るように伝えた。ユニコ会の家族には事前に危険さを伝えてあるので、滅多なことはないはずだ。しばらくすると全員連絡が取れ、どの家族も無事に隠れているようだ。安全な場所が見つかれば、円盤で連れて行くこともできる。
 ネットで情報が集まってきた。悪魔に乗っ取られた人間は凶暴で恐ろしいが、知的能力の大半を失っているので、鍵を開けることはできないし、見つかっても隠れてしまえば記憶が途切れて探そうとしないようだ。見つからなければなんとかなる。その反面、身についている動きは考えなくてもできるので、運転などはできるようだ。暴走する車に飛び込まれた家の写真が上がっていた。警官は拳銃を撃つことはできるようだが、狙いは適当らしい。乱射して弾が尽きてもトリガーを引き続けている動画もあった。動画の中には、悪魔に乗っ取られた人を逆に襲って殺して得意げにしている動画もあった。乗っ取られた人には高齢者も多く逆にターゲットになりやすい。これがキルケの望んだ殺し合いなのかもしれない。弱肉強食列島だ。

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