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第6章17 [宇宙人になっちまった]

「ここの状況を教えてください。綾音、いや、キルケのことは勿論知っていますよね」
 敬一が訊いた。
「勿論知っている。あの放送はここからだ。上層部が官邸からの生中継を指示したんだ。誰も放送内容を知らなかった。知っていたのは制作局のトップだけだよ。キルケのことも知っていたんだ。とんだ茶番劇だよ。あんな放送を流すなんて。もう追い出したからここにはいないけどね」
 男は自嘲気味に言った。
「局内に悪魔はどのくらいいますか?」
「ここから先にはいないはずだが確実ではない。若い局員と見学者が数人悪魔になったがね、みんなで取り押さえて閉じ込めてある。一人怪我をしただけでなんとか無事だったよ。君たちはなぜここに来たんだ」
「放送をするためです。悪魔から隠れている人にメッセージを送るんです。負けるなって伝えたいんです」
浜辺が拳を握りしめていった。
「それはいい。きっと放送を待っている人がいるはずだからね。すぐ準備にかかろう」
 男は嬉しそうに言うと浜辺たちを報道スタジオに案内した。壁面にはたくさんのモニターが稼働している。画像を見るとほとんどは処方会場が映されている。局内では政府の強引なやり方に違和感を感じている職員が多く、実体を探ろうと処方会場に多くの中継カメラを配置していたと男が教えてくれた。結果は予想通り強引なやり方で、何が起きているのかわからなかったらしい。その後は敬一たちと同じ光景を目にしてようやく自分たちの置かれている状況が掴めたようだ。その時には局内にも悪魔に乗っ取られた人が現れて相当混乱したらしい。伊東という中年の男の人は、家族には処方会場に行かないように伝えたが、その後連絡が取れなくなったようだ。どこかに隠れていれば放送を見るはずだから、必ず助かると伝えたいと言った。
 浜辺たちは報道局の伊東氏と打ち合わせをした。自分たちの素性やエフのこと、和歌山でのことなどを話した。質問攻めにされたが、丁寧に説明してようやく理解してもらった。
 放送の目的は息を潜めて隠れている人たちに希望を持ってもらうことだが、第一に消滅した日本を生き返らせなければならない。そのためには臨時政府の立ち上げと指導力のあるリーダーが欠かせない。しかし、どこを探してもそんな人材は見当たらない。いてもここに連れてくることは難しい。かといって局内の誰かをリーダーに祭りあげることもできない。伊東氏や報道局のスタッフも頭を抱えた。求心力のあるリーダーがいなければ、不安に怯える人たちを勇気づけることは難しいだろう。竹内総理の裏切りとも言える無力さとキルケの恐ろしさを目の当たりにしたから人を信用できなくなっている。
「エフがいい」
 敬一が唐突に言った。誰も言われた意味がわからない。

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