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第6章18 [宇宙人になっちまった]

「エフって、どういうこと?」
 浜辺が訊いた。
「臨時政府のリーダーはエフがいいと思う」
 敬一が微笑みながら言った。自分でもいいアイデアだと思ったのだろう。
「エフって、君の話では小学生くらいの宇宙人で、円盤に乗っているんだろう? どう考えても無理だろう。誰も信用しないよ」
 伊東氏や報道局のスタッフはお互いに顔を見合わせて苦笑した。
「本物の円盤を見せたらどうでしょう。屋上で見せるんです。円盤からエフが降りてきて臨時政府の樹立を宣言するんです」
 敬一が両手を大きく動かしながら話すと、笑っていた大人たちが腕組みをして考え始めた。
「円盤か。前代未聞だが、屋上で着陸するところから見せれば説得力はありそうだ。竹内総理よりましだろう。まず我々から信用させて欲しい。善は急げだ。これから屋上でエフに合わせてもらえるだろうか」
 伊東氏とスタッフはもうすでに腰を上げようとしている。
「エフに伝えます。五分あれば大丈夫です。すぐに移動しましょう。通路に悪魔はいませんね」
 敬一はエフに伝えると、悪魔の状況を確認した。エレベーターが使えないので非常階段を上ったが、屋上に着くと息が切れた。広い屋上にヘリポートが見える。よく晴れた空を見上げると数十メートル上空に銀色に光る円盤を見つけた。似たような光景を昔なにかの映画で見たような気がした。敬一が指さすと、すでに気がついて空を見上げている。円盤はわざとゆっくり下降してきた。ヘリポートから二十センチほど空中に浮いたまま停止した。この状況を見るのは敬一たちも始めてだ。いつもはあっという間に上空にピックアップされるからだ。敬一たちもスタッフもまじまじと円盤を眺めたり、そっと銀色の光沢を放つ機体に手で触れた。継ぎ目のようなところが一つもなく、スタッフはどこから出てくるのだろうと油断なく眺めている。音もなく現れるとはこういうことかと思うほど急にエフが円盤の上に出てきた。予想はしていたがそれでもハッと息を呑む瞬間だ。スタッフはもっと驚いたようで、口を開けたまま声も出ないようだ。
「どこから? 出てきた?」
 スタッフの一人がやっと声を出した。
「やぁ、エフだよ。話は聞いている。円盤をみんなに見せるんだよね」
 エフは敬一たちと初めて会ったときのように、ニコニコしながら出てきた。この笑顔を見せられると警戒心の強い人でも心を許してしまう。
「ありがとう、私は伊東と言います」
 ぎごちない自己紹介が続いた。どのスタッフも自己紹介した後は微笑んでいる。エフには人を笑顔にする魔法のような力があるのかもしれない。この笑顔で臨時政府の樹立を宣言され、リーダーと言われたらどんな感じだろう。誰も頭の中でシミュレーションをしているに違いない。

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